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IT×大企業で社会の変革に挑むトップランナーたち

「三菱電機を芯からアジャイルに」三菱電機の中の人になった市谷氏×20年のアジャイル推進者 細谷氏と紐解く大企業DXのヒント

市谷聡啓氏が三菱電機 プリンシパルアジャイルエキスパートに就任、新たなジャーニーへ

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三菱電機でのアジャイル導入の成果が、日本企業のDXを変える

──市谷さんが三菱電機に入社されたことで、どのような活動を展開されていくのでしょうか。

市谷:細谷さんをはじめとする社内の方々とディスカッションを重ね、我々の活動に3つの役割を設定しました。まず、三菱電機内でアジャイルを広げ、浸透させること。次に、外部のコミュニティと協力関係を築き、三菱電機のアジャイルへの取り組みを伝えながら新たな関係性を構築すること。最後に、社内のアジャイル関連プロジェクトの推進を担うことです。これらの役割を通じて、組織内外でアジャイルの普及と実践を進めています。

 私が入社した理由については、外部からの支援には一定の限界があるからです。外部から関わる場合、役割が明確でないと関われませんし、関われても限定的になります。例えば、特定のワークショップやプロジェクトのコーチングなど、限られた範囲での関与になりがちです。

 組織を変えていく大きなテーマに取り組む場合、初期の課題だけでなく、進めていく中で新たな課題が次々と現れます。これに対処するには、組織の内部者としての立場が効果的です。外部のコンサルタントではなく、同じ会社の人間として仲間意識を持って取り組むことで、心理的な障壁を下げられます。DICの取り組みは本気で、新しい価値創造に向けて実際に動き出しています。ここで今までにない挑戦ができるかもしれないという期待から、この立場を選びました。

細谷:市谷さんとの関わりは2014年の講演依頼から始まり、2018年頃に仮説検証型アジャイルのガイドライン作成など、いくつかのプロジェクトで協力関係を築きました。2023年にDICが設立され、アジャイル開発のガイドライン作成、サービスデザインプロセス構築、データ分析基盤の整備などに取り組んできました。今回、市谷さんに加わっていただくことで、これらの取り組みがさらに加速すると強く期待しています。

──市谷さんが三菱電機の社員という立場を選ばれたのは、大きな決断だったのではと思います。三菱電機のどのような点を期待したのでしょうか。

市谷:三菱電機は長年、新しい価値創出に本気で取り組んでいます。特に注目すべきは、アジャイル、サービスデザイン、データ分析という三つの柱を設定し、同時に推進していることです。これらをIRで公表し、実際に整備を進めているのは、本気度の表れです。標語だけになってしまっていたり、三つのうちの一つの分野の実現にとどまることが多い中、三菱電機は同時に実践してきたのです。

細谷:市谷さんは以前、日本のアジャイル普及において、マジョリティーの変革が難しいと指摘されていました。国の活動や金融、製造業などの変革が重要だと話し合ったことを覚えています。たとえば、大企業である三菱電機を変えられれば、他の多くの組織も変えられるだろうという考えがあったようです。市谷さんが私たちの組織に加わり、共に変革を進めることで、日本全体のアジャイルの取り組みをさらに広げていけるのではないかと感じています。

市谷:アジャイルの提案においては成功事例を求められることが多いです。三菱電機でアジャイルによる組織変革が成功すれば、日本の他の組織にとって重要なリファレンスになるでしょう。私自身、20年近くアジャイルに携わってきましたが、このような状況を作り出すことができれば、その努力が報われたと感じられるでしょう。

──三菱電機のDX推進やアジャイルの取り組みの今後についてお教えください。

細谷:2023年にDICが設立され、データ分析基盤やWeb API連携基盤の構築、事業DX向けの開発プロセスと品質保証の仕組み作りなどを開始しました。2024年5月のIR Dayで発表されたDX戦略では、これをさらに具体化し、事業DXにおけるマインドセットの変革、特にウォーターフォールからアジャイルへの移行を明確に打ち出しています。また、サービスデザインとアジャイル開発の組み合わせも強調されています。これらは2023年度から着実に進めてきた活動を基盤とし、今後さらに発展させていく方針です。

 今後は新しい事業DXプロジェクトの立ち上げに移っていきます。すでにいくつかの活動を開始していますが、これからはさらに多くのプロジェクトを展開していく予定です。仮説検証を重ねながら数多くのプロジェクトを実施することで、成功するものを見出していきます。つまり、仕組み作りの段階から実際の事業創出へと軸足を移していく段階です。

 私たちは単独で事業を生み出す部門ではありません。むしろ、これまで各事業本部内で閉じていた活動を、私たちと協力して行う形に変えていきます。たとえば、複数の事業を組み合わせた新しいサービスの創出などを目指し、ビジネス仮説の立案から私たちが関わります。私たちはその方法論を提供したり、直接検討に加わったりしながら、事業本部の方々と共に事業創出活動を推進していく役割を担います。

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アジャイルは開発だけでなく、事業創出や組織運営にも適用できる

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)

株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...

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ミヨグラフィ(ミヨグラフィ)

フットワークが窒素よりも軽いフリーランスフォトグラファー。ポートレート、取材、イベントなど主に人物撮影をしています。英語・中国語対応可能。趣味は電子工作・3Dプリント・ポールダンス。 Webサイト

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