「武士」と「忍者」でDXを実現するバイモーダル戦略とは
「永久不滅ポイントのセゾンカード」でおなじみのクレディセゾン。クレジットカード会員数は3500万(関連会社含む)、ネット会員は1560万会員、連結カード取扱高は8.4兆円となるなど、ペイメント事業を中心に事業を展開している。
5年半ほど前から同社はゼロから本格的にDXに取り組み始めた。内製開発チーム「テクノロジーセンター」を立ち上げ、ビジョンや行動規範を盛り込んだ原則を定めるなどしっかりと足固めをするところからスタートしている。
最初のプロジェクト「セゾンのお月玉」は、セゾンカードで決済すると500円につき1枚のデジタル抽選券がもらえて、毎月1万人に現金1万円が抽選で当たるというキャンペーンだった。カード決済額が関係するため、技術的にはスマホなど新しい領域だけではなく、旧来の基幹システムとの連携も必要になる。結果的には休眠会員の復活や、SNSでの盛り上がりなど大きな成功を収めた。
これまでの同社のDXの取り組みは経済産業省と東京証券取引所が選定するDX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)に2023年と2024年の2年連続で選定され、他にもSlack Technologies社が主催するSLACK SPOTLIGHT AWARDS 2022にて「国別優秀 Digital HQ賞(日本)」を受賞するなど、国内外で高く評価されている。
DXの取り組みで大きな特徴となるのがバイモーダル戦略だ。「バイモーダル」はガートナーが提唱した表現で、安定性重視の「モード1」と俊敏性重視の「モード2」、これら2つのモードをうまく組み合わせることを指す。
モード1は従来からのITで、象徴的なのはウォーターフォール型の開発手法だ。トップダウンで、大規模で、統率力や実行力が強みで、IT部門が集中管理していく。例えるなら「武士」で、領地や報酬を死守するようなイメージだ。
相対的に、モード2はアジャイル型の開発手法になる。伴走型の開発も含む。ボトムアップで、小規模で、機動力や柔軟性が強みで、ユーザー部門が分散管理していく。例えるなら「忍者」で、何が有効かを探るようなイメージだ。
IT部門から見たユーザー部門の存在で比較すると、モード1ではユーザー部門はIT部門の顧客となるが、モード2ではユーザー部門はIT部門のパートナーとなる。
情報共有手段をメールとExcelからチケット管理ツールへ
実際のクレディセゾンにおけるDXのプロジェクト運営に話題を移そう。多数の部署やITベンダーとの調整が必要になるなか、コミュニケーションや情報共有手段がメールやExcelが中心となっていた。慣れ親しんだ手段なので無理もないとはいえ、非効率さがタスク管理の課題となっていた。
そこでチケットベースのタスク管理の採用が検討の俎上に浮上した。それまで進捗確認のために誰かが議事録を作成してメールで配布するなどしていたが、チケットベースのタスク管理ツールを活用すれば効率化と迅速化が期待できる。例えば会議でのタスク進捗確認をスピーディーに消化できるだろう。また各自にチケットでタスキングすることで開発者に自律的なスタイルを維持してもらうこと、個別開発の結合度を下げることなども期待できた。
なお開発現場ではコミュニケーションツールはSlackが定着していた。また開発環境はIDEにIntelliJ IDEA、GitHub、AWSで構成されており、そしてプロジェクト管理にはLychee Redmineを採用した。
Lychee Redmineは国内の大手企業に多数導入されるなど、使いやすさででは定評があるツールだ。主にガントチャート、カンバン、リソースマネジメント、CCPM、コストマネジメント、EVM(Earned Value Management)、タイムマネジメント、プロジェクトレポートなどの機能が揃っている。あらゆるデータが可視化され、プロジェクトの進捗が直感的に把握できるようになっている。
長南氏は「プロジェクト管理メンバーが日々の進捗をLychee Redmineのガントチャートやダッシュボードで確認しています。プロジェクトのレポートを抽出することも可能なので、モード1的な報告も簡単にできます」と話す。
チケット管理の実例を見ていこう。ユーザー部門とは、まず(1)Lychee Redmineでチケットを起票、(2)Slackでメンション、(3)チケットの確認と記載対応、(4)Slackでメンション、(5)クローズという流れで極力シンプルに使っている。メールではなくSlackのオープンチャンネルでメンションを使うため、「見ていない」「報告を受けてない」という事態がかなり軽減できているという。
逆にシステム部門とは、まず(1)リード層がベースのチケットを起票、(2)メンバーが各自作業タスクを具体化して自身で子チケットを起票、チケットを分割、(3)チケットごとに開発し、タイミングごとにプルリクをあげる、(4)プルリクがクローズされるとチケットもクローズという流れにしている。
長南氏は「大きな作業だとプルリクまでの時間が長引いてしまうので、スモールブランチでコントロールするように心がけています」と話す。基本的には画面単位やモジュール単位でチケットを切り、その後の各種機能は開発メンバーにチケットを起票してもらい、対応してもらう形にしている。「こうすることで開発メンバーは与えられたタスクだけをこなすのではなく、自発的な行動を取れるようにということも意識している」と長南氏は言う。
チケット管理ツールをユーザー部門にも浸透させる工夫
クレディセゾンにおけるLychee Redmine活用のポイントを見ていこう。まず仕組みとしてチケット番号、Gitの管理番号、ブランチの番号を紐付けるようにしていて、チケット毎に開発して、プルリクをあげてもらい、マージできるようにしている。そうするとプルリクをクローズすると、チケットもクローズすることができる。
ユーザー部門とシステム部門では関心事が異なるため、チケットはプロジェクトを分けて管理するようにしている。必要なチケットは関連チケットということで紐付けている。
Lychee Redmineにはバージョンに関連付けられたチケットの一覧を表示する「ロードマップ」という機能がある。アジャイル開発では短いサイクルで成果を出すという性質上、このロードマップには短いサイクルで設定するようにしている。細かい温度感は各チームのテックリードに任せており、メンバーレベルに応じてコントロールしてもらっている。
長南氏は「複雑に使わず、できるだけシンプルに利用する」と強調する。というのも、難しくしてしまうと、ユーザーが離れてしまうそうだ。「特にユーザー部門がすごい勢いで離れます。すぐにメールに戻ったり、Excelで一覧管理を始めたりしてしまいます。ですので、(複雑化しないように)気をつけています」と念を押す。
実際のチケット作成画面では、ユーザーが記入するのはトラッカー、題名、説明欄だけだ。必要に応じてシステム部門が開始日や期日をコントロールすることもある。後で返信する際には、編集、ステータス、担当者の切り替えだけにして、クローズはシステム部門が行う。
定型業務や定例会などはひな形を作成しておいて、当日確認したいことやQAを記載してから打ち合わせを行うようにしている。長南氏は「こうすることで認識齟齬が減り、互いに準備してから臨めるといった利点があります」と言う。
Lychee RedmineだとSlackと連携できるのも利点だ。関連するSlackのChannel名を設定しておくと、設定したSlack Channelにチケットの編集内容などが投稿される。そのためユーザーはSlackを見ているだけで進捗状況を把握できる。
GitHubとの連携は「git-flow」と呼ばれるGitブランチ管理を使っている。開発に関する各種ブランチ名やコミットメントをチケットと紐付ける。こうすることで、履歴を追跡しやすくなり、各種タスクの幅を縮めることで認識しやすくなる効果が期待できる。
IDEのIntelliJ IDEAとの連携はAPIアクセスキーを設定することで、Lychee Redmineの自分のタスクが表示されるようになる。ソースコードに変更を加えた場合、チェンジリストで変更したソースコードがLychee Redmineのチケットから作ったタスクごとに管理される。
工数管理をしているなら、ガントチャート機能も有効だ。開始日や期日、担当者、ステータスなどの編集も管理画面上から簡単にでき、ロードマップ毎にPDF出力をして、進捗状況の報告も可能。他にも、チケットの着手状況や完了具合もCSVでサマリーレポートとして出力できるため、プロジェクトの最新の状況を把握しやすくなると言う。
長南氏は「チケット管理を通じて当事者意識を高めることを意識しています」と話す。当初はユーザー部門はモード1だったが、チケット管理ツールに慣れてもらうことで、自然とモード2的なコミュニケーションを実践できているようだ。
まとめとしてLychee Redmineの効果について長南氏は次のように振り返る。「以前は課題一覧表がExcelで送られてきましたが、1か月ほどでなくなりました。報告資料や個人タスクはExcelで報告していましたが、Lychee RedmineでCSV出力できて資料のまとめ作業がなくなりました。Lychee Redmineで管理業務を軽減できて、チーム内外のコミュニケーションもスピードアップできています」
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