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こうした意識の違いを、「経営側はアウトカムベース、現場側はアウトプットベースだといえる」と指摘する河原田氏。ここで、『リーンスタートアップ』という本の中で提唱されている「虚栄の評価指標(Vanity Metrics)」という概念を紹介した。
これは、「成果に繋がっているように見えるが、実際の行動には繋がりにくく、ビジネスの成功とも相関しない数値」を示すものだ。たとえば、バグの検出数はビジネスに対して直接的な価値をもたらすわけではないため「虚栄の評価指標」に該当する。重要なのは単にバグを多く見つけることではなく、重大なバグを早期に発見し修正して、顧客が製品に不満を抱く事態を避け、プロダクトを選んでもらい、その結果として事業の売上や利益が向上することなのだ。
そのため、チームが重視する指標はビジネスの成長を促すものに設定する必要がある。品質チームであれば単なるバグの発見数ではなく、重大なバグの早期発見率や、顧客満足度の向上、製品のリリース後の安定性などを指標として設定することが望ましいと語った。
講演では、「品質」のみならず、大学院でMBAを修了したエンジニアである河原田氏らしい、物事を構造的に捉える考え方も紹介された。サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」を引いて、Why(なぜそれが必要なのか)How(どのように実現するのか)What(何を提供するのか)の順序で考えることの重要性を説いた。
このときに注目すべきは「How」の部分だ。HowはWhyの下に位置する「方針」としてのHowと、Whatの下に位置する「やり方」としてのHow-toの2タイプに分かれると示し、「多くの人が論じる方法論としてのHowは、Whatの下に位置するHow-toを指していることが多い」と説明した。
たとえば「品質を向上させる」というWhyに対して、「テストを自動化する」という方針についての議論はHowのレベルの話だ。しかし、「どのツールを使ってテストを自動化するか」といった方法についての議論は、How-toレベルの話題になる。
さらに河原田氏はこの概念を拡張し、先述のHow-toとWho(どんな組織が作るのか)の要素を加えた5段階の考え方を提案。マネーフォワードやfreeeといったアプリを例に挙げ、「それぞれ特徴が違っているのは、使いやすさや狙っているポイントが異なるからだ。組織が異なれば、根本的に実現したいWhyも変わる」と示した。
この「Who」にあたるものが品質文化だ。品質構造は組織文化全体の影響を受けるため、たとえば「品質はQAチームがテストをすればいい」「販売は営業の仕事、宣伝は広告の仕事」といった縦割り的な考えを持つ組織においては、意識改革から始めなければならない。