社内人材がつくる「品質文化」
講演の冒頭、河原田氏は「品質」の定義は長年研究され、人によって異なると語り、ジェラルド・ワインバーグ氏に由来する「品質は、ある時点で、それが重要な誰かにとっての価値である」という言葉を紹介した。さらにこの「価値」の基準についても、書籍『LEADING QUALITY』から「品質は主観的なものであり、その時点で製品を使用している人が決める」と引用し、品質が主観的かつ相対的な概念であることを強調した。
グロービスのQAチームではこうした品質について、人材育成や能力開発など人的側面である「People(ピープル)」、開発の過程に着目する「Process(プロセス)」機能改善やバグ修正などを行って直接品質を上げる「Product(プロダクト)」の3つの側面からなる「P^3 Quality(ピーキューブ・クオリティー)」として整理した。
特にPeopleについては「誰をバスに乗せるか」、つまり誰を採用するかが非常に重要だ。一度バスに乗車した人をすぐに下すことはできないため、バスの進行方向に一緒に進んでいく人材を採用しなくては、次の Process の品質への悪影響につながる。このように「人」が創り上げるものを「文化」と呼び、品質に関わる領域を「品質文化」と称していると紹介した。
「現代のマーケットには多くの類似製品が生まれやすく、顧客はいつでも別の製品に切り替えることができる」と語る河原田氏。ブルーオーシャン市場でポジションを確保したとしても、ユーザビリティや価格面で秀でている後発企業が参入することで、あっという間に撤退を余儀なくされてしまうのだ。
ソーシャルゲームなども含めたソフトウェア業界では顧客の移動が容易であり、先駆者であっても後発の企業やプロダクトに追い抜かれることが珍しくない。だからこそ、生き馬の目を抜くような現代市場において「品質を向上させ続けること」は生き残るための至上命題なのだ。
この「品質」がビジネスに及ぼす影響は、経営と現場の目線の違いにも波及する。経営層は全社目標とそれに紐付いた部門目標を基に考えるため、結果ベースで数字を見る。一方、現場は作業ベースで考えるため、バグの件数やテストケース実行数など「何をするか」という方向に意識が向かうと述べた。