技術負債は「価値の創出」を妨げる
「技術負債が事業に与える影響はさまざまな領域に波及するが、ソフトウェアに限れば、"価値あるものを作れなかった"という点に集約される」と語り始めた石垣氏。ここでの「価値」とは、売上の創出やユーザー数の増加、リテンション向上につながる機能を指す。すなわち、「価値が作れなかった」とは「事業責任者が立てた、機能やキャンペーンなどの目標を達成できなかったという状況」を意味する。
ではなぜ、多くの費用をかけても価値を創出できない事態に陥るのか。石垣氏は「期限に間に合わなかった」ケースと「作るべきでないものを作ってしまった」ケースに大別し、今回は前者に焦点を当てると示した。
価値の創出と技術負債にはさまざまな要素が関わるが、とくにソフトウェア事業における事業計画では、予算計画と開発計画が主なカギになることが多い。
たとえば売上高の目標を「前年比130%」と置く事業計画がある場合、それに向けたキャンペーンについての概算見積もりや、各時期に必要な機能などを明記したロードマップを作成するのが一般的だが、「年間計画を立てる際の見積もりは楽観的になりがちで、ずれが生じやすい」と石垣氏は指摘する。
「初めの四半期ごろまでは実績と計画が合致するものの、次第に技術負債や開発スキルの不足などが顕著になり、急激に計画とのズレが生じ始める」。その結果、獲得できるはずだった売上やユーザーの価値が失われてしまい、「価値あるものを計画通りに作れなかった」という問題へとつながっていくのだ。
「こうした状況下では、開発予算もほぼ必ずオーバーする」と所感を述べる石垣氏。多くの場合は開発の遅れや技術負債を解消すべく追加予算を投入することになるが、投入した予算分の売上も作らなければYoY成長は達成できない。すると支出増加と売上停滞の二重苦に陥り、事業責任者が頭を悩ませるわけだ。