「QAって何ですか?」からの出発点
コロナ禍の真っただ中、旅行系スタートアップに「1人目のQAエンジニア」として飛び込む──想像するだけで険しい道のりだが、実際の現場はどうだったのか。そのリアルを共有してくれたのが、株式会社令和トラベルでQAチームをゼロから立ち上げ、3年かけて“個”から“チーム”、そして“組織”へと育て上げたmiisanだ。
旅行アプリ「NEWT」の立ち上げに初期フェーズから参画したmiisanは、現在はQAエンジニアの枠を超えて、エンジニアリング戦略や組織文化の設計にも幅広く携わっている。
「趣味は旅行とダイビング。先月も2週間ほどメキシコで遊んできました」と笑顔を見せるmiisanだが、入社当初の現場は、決して穏やかなものではなかった。

当時の開発チームはエンジニアが約10人、QAエンジニアは彼女ひとり。そもそも社内に「QA」という職種自体が知られておらず、「Q&Aの略ですか?」と真剣に尋ねられることもあった。

スタートアップにありがちな「まずは出す」が合言葉のような空気のなか、仕様書はなく、QA業務はPMやインターンがアプリを触ってみる程度。開発も品質保証も、手探り状態だった。
さらに、miisanが入社したのは2022年4月1日。そしてわずか4日後には、プロダクトのコアローンチを控えていた。ちょうどコロナ禍から光が差し始めた時期で、抑えられていた旅行需要が復活の兆しを見せるなか、社内はお祭りムード。「品質保証に目を向ける余裕などないような状況だった」とmiisanは当時を振り返る。
そこで彼女が最初に取り組んだのは、「品質保証の体制づくり」よりも先に、プロダクト開発の“方針”を掲げること。
提示したのは、「品質とスピードはトレードオンできる」というビジョン。品質を守りながらスピードを上げる——言葉にすれば簡単だが、実現するには大きな壁があった。
その象徴的な出来事が、コアローンチ後にリリースされた最初の新機能「銀行振込での支払い」だった。「比較的単純な機能」にもかかわらず、開発には20日以上を要し、しかもリリースされた機能には致命的な不備があった。アプリに表示されていた銀行口座番号が、なんと間違っていたのだ。
たったひとつのリリース、たったひとつの機能で、絶対にあってはならないミスが発生した。この出来事が、miisanの「1人目QAエンジニア」としての本当のスタートだった。
