はじめに
2011年9月に、Windows向けのビジュアル開発ツールとして定評のある「Delphi」の新しいバージョン「XE2」がリリースされました。
XE2では、従来のWindowsだけでなく、Mac OS Xへのクロス開発がサポートされました。開発環境はWindowsですが、Mac OS X上で動作するネイティブアプリ、iPhone、iPadで動作するiOSアプリのクロス開発が行えるようになったのです。
「DelphiといえばWindows向け」という常識が変わった現在、この新しいクロス開発の注目度が増しています。そこでこの記事では、XE2からサポートされたiOSアプリの開発手順について紹介してみようと思います。
DelphiでのiOS開発の大まかな流れは次のようになります。
- Windows上のDelphi XE2でiOSアプリを作成
- コンバートツールを使用してXcodeにコンバート
- コンバートされたコードも含めてMac上へ移動
- Mac OS X上で、Xcodeでコンバートされたプロジェクトをビルド、実行
これだけです。
まず iOS開発を行うための環境のセットアップについて説明します。
Windows側は、
- Delphi XE2のインストール
- Delphi XE2でXcodeへのコンバートツールを実行するためのセットアップ
の2つです。
Mac側の環境セットアップですが
- Apple Developerに登録とXcodeの入手
- Xcodeのインストール
- Free Pascalのインストール
となります。
それでは、一つずつ順を追って説明していきましょう。
セットアップ - 開発を始める前に
Windows側の設定
Delphi XE2の動作環境は以下のとおりです。
- Microsoft Windows 7(32-bitおよび64-bit)
- Microsoft Windows Vista SP2(32-bitおよび64-bit)管理者権限が必要
- Microsoft Windows XP Home、またはProfessional(32-bitおよび64-bit)SP2、または SP3
- Microsoft Windows Server 2003 SP1、または2008(32-bit および64-bit)
メモリは2GB以上を推奨、Delphi XE2のEditionにより、3~7GBのディスクの空き容量が必要です。また、iOS開発をサポートしているのはProfessional版以上で、廉価版であるStarter版ではiOS向けの開発はできませんので注意が必要です。
Delphi XE2をインストールし、使用許諾を完了させると、IDEが起動します(図2)。
まず、Xcodeへのコンバートツールを実行するためのセットアップを行います。
- Xcodeへのコンバートツールは、dpr2xcode.exeという実行ファイルで、デフォルトでDelphi XE2をインストールした\binフォルダ内にあります。この実行ファイルをメニューから簡単に実行できるように設定を行います。
- IDEのメニューから[ツール]-[ツールの構成...]を選択します。
- ツールオプションのダイアログが表示されますので、[追加]ボタンを押します。
- ツールプロパティの画面が開きますので、以下のように入力し[OK]ボタンを押します(図3)。
項目 | 値 |
---|---|
タイトル | Xcode Export |
プログラム | dpr2xcode.exe |
作業ディレクトリ | 空白のまま |
実行時引数 | $PROJECT |
この作業によりIDEのメニューから[ツール]メニューを開いた際に、"Xcode Export"というメニュー項目を簡単に実行できます(図4)。
Windows側の準備は以上です。
Mac側の設定
iOS開発を行うにはXcodeの入手が必要となります。Xcodeをダウンロードして使用するには、Apple Developerに登録します。Apple Developerへの登録は以下のサイトから行います。
ここで気を付けていただきたいのは、現在DelphiがサポートしているXcodeのバージョンです。
- Snow Leopard:iOS SDK 4.2、または4.3および互換性のあるバージョンのXcode
- Lion:iOS SDK 4.3および互換性のあるバージョンのXcode
こちらを入手してMac上にインストールします。現在、XE2のUpdate4がリリースされており、Update4で提供されるiOS開発環境はXcode 4.2と互換になっていますので、Xcode 4.2を入手するのがベターです。
また、Xcode 4.2にはiOS 5.0 SDKが含まれていますが、この後でインストールする FireMonkeyのiOS ツール(Free Pascalなど)ではiOS 5の新しい機能はサポートされておりません。しかし、Delphiで作成したアプリはiOS 5が動作するデバイスに配置し動作可能です。なお執筆時点では、FireMonkeyのiOSツールは、iOS 5.0 SDKのみが含まれるXcode 4.3には対応しておらず、インストールできません。
Xcodeのインストールが終わったら、WindowsにインストールしたDelphiのFireMonkey-iOSフォルダにあるFireMonkey-iOS.dmgをMac側にコピーします(Delphi XE2をインストールしたFireMonkey-iOSフォルダ内にあります)。
Mac上でFireMonkey-iOS.dmgを開き、次の2つのインストーラパッケージを実行します。
- fpc-2.4.4.intel-macosx.pkg
- FireMonkey-iOS-XE2.pkg
この2つのインストーラパッケージは、以下の操作を実行します。
- Free Pascal 2.4.4を/usr/local/にインストール
- Free Pascal 2.5.1ソースを/Developer/Embarcadero/fpc/にコピー
- アプリケーションに必要なFMIソースを/Developer/Embarcadero/fmi/にコピー
- Free Pascal 2.5.1をビルドし、/usr/local/にインストール
- 必須iOS SDKヘッダーを生成、ビルドし、/Developer/Embarcadero/fpc/にインストール
ここでFMIソースを/Developer/Embarcadero/fmi以外の場所にインストールした場合は、Windows側で設定したXcodeへのエクスポートツールの設定の「実行時引数」の部分を次のように設定します。
-fmi=/<FMI ソースの場所> $PROJECT
Mac側の準備は以上です。