エンタープライズも数時間でのアプリ開発が求められる時代へ
冒頭でゲストスピーカーとして招かれたカナダのタンジェリン銀行CEO ピーター・アセト氏と同社CTO チャラカ・キツレゴダ氏による講演が行われた後、米IBM ソフトウェア&クラウドソリューション担当 シニアバイスプレジデントのロバート・ルブラン氏がImpact 2014のステージに上がった。
ルブラン氏はまず、過去にもITには大きな変革が何度かあったが、それはITの何かの要素が順番に入れ替わってきたもの、現在起こっている変化はそれと異なり、クラウドの登場により「業界を問わず一挙に変わろうとしている」のだという。この変化を一言で表現すると「アンバンドル化」(ルブラン氏)。既存・新規を問わずサービスをいったんばらばらにし、それを改めて組み合わせて新しいBtoBを構築していく。過去にもSOA(Service Oriented Architecture)が登場したときに語られたビジョンであるが、昨今のWebサービスが当然のように実装してきた手法だから、開発者側にも一定のリアリティを持って受け入れられるだろう。
このような激しい変革が起こっている背景には、ビジネスがパーソナライズの時代に突入し、どの業界でも「モバイル」と「クラウド」を活用してユーザーや顧客に新しい機能を提供しようとしているためという。エンタープライズ分野においても、これについていくためにはイノベーションを継続的に行うこと、さらにクラウドなどの新しいテクノロジーを使用して、(クライアント側でも社内側でも)ビジネスプロセスを変革することが必要だとルブラン氏は指摘。加えて、企業はデータを活用し、意識決定の質を高めた上で、さらにすぐ実行に移せる見通し(Insight)を得なければならない。「データは新しい石油」(ルブラン氏)なのだ。
スピード感も重要である。事業部門がビジネスのためのアプリケーション開発を要求を受け取ったIT部門は、今や数日・数時間で完成させなければならない。完成するまでに1年半という悠長な時代はとうに終わっている。
コンポーザブルビジネスの全体像
もちろん、変革の最中には大きなチャンスもある。「システム・オブ・レコード」(基幹系などデータ管理が中心のシステム)と、「システム・オブ・エンゲージメント」(ユーザー体験のためのシステム)の統合はその1つだ。ただし、ゼロから作っていくビッグバン型ではなく、使えそうなものをすべて見て決める「ビルディング・ブロック・アプローチ」をとらなければならない。理由はスピード感。社内にあるもの、自分で作るものだけでなく、IBMのようなベンダー製のもの、第三者が開発したのものなども広く利用する。
これが「Composable Business」(以下、コンポーザブルビジネス)の姿である。ビジネスの実現に必要な部品を探し、組み立てていく。そのために、まずはクラウドに真剣に取り組むこと。それを成長エンジンとして使っていくことが大切だとルブラン氏は述べる。そうして、顧客や社員とのエンゲージメント(価値や意識を共有すること)を追求する。ビッグデータを使い、ユーザーの「私のことを理解して、エクスペリエンス(ユーザー体験)をパーソナライズしてほしい」というニーズに応えるのは、エンゲージメントを高めるためだ。
また、コンポーザブルビジネスを実現するためのメンバーには、3つの役割があるという。
1つ目は事業部門のリーダー。達成すべき目的やビジネスを牽引する方法、顧客へのアプローチなどを考える役割だ。役割の2つ目はITリーダー。プロジェクトマネージャーに近いかもしれない。ハードウェアを中心にシステム管理の負担を軽減してくれるのがクラウドを採用するメリットの1つであるはずだが、実はコンポーザブルビジネスにおいては、クラウドの仕様が前提であっても、残念ながら「ITリーダーの仕事は楽にならない。むしろ難しくなる」(ルブラン氏)。システムのあらゆる所をエンドトゥエンドで統合された形で考えなければならないからだ。データセンター内のことだけでなく、その外のことも考慮する必要がある。
一方、役割の3つ目である開発者には「本当に良い時代が来た」とルブラン氏。様々なAPIを駆使し、格好よい次世代のシステムを設計できるからだという。ただし、開発者は、事業部門がかんがえるビジネスのエネーブラー(実現者)になっているかどうかに意識を払う必要がある。また、顧客やユーザーのデータを保護するなどのセキュリティも重要事項だ。
新サービス「IBM Cloud Marketplace」と「BlueMix Garage」を発表
IBMでは、コンポーザルビジネスを支援する場として、この日「IBM Cloud Marketplace」を発表した(米IBMのニュースリリース(英文))。IBM Cloud Marketplaceは、IBMが今年2月に発表した同社のPaaS「BlueMix」(現在はベータ版)でアプリケーションを構築するために役立つ各種サービスや、IaaS・PaaS・SaaSの各種情報が入手できるWebサイト。サービスには、ビジネス機能を提供する「Mobile messaging for marketing」や開発向けの「Node.js」など様々なものがある。ここにサービスを出品したり、試して購入したりすることも可能で、エコシステムの基盤となる機能を備えている。
「皆さんがばらばらのミドルウェアやAPIを、使いやすいように誰かが統合してくれたらと考えているのではないかと思い、BlueMixを提供することにした。さらにIBM Cloud Marketplaceにあるサービスを実際にBlueMix上で使用するときの利便性向上を考えて、ドキュメンテーション、ブログ、ビデオの記事、コミュニティの活動、ケーススタディなどのコンテンツもそろえた」(ルブラン氏)
なお、BlueMixにはアナリティクスやオードスケーリングのサービスが追加されたことも合わせて発表。さらに、BlueMixによる開発を支援する施設として、「BlueMix Garage」(米IBMのニュースリリース(英文))の第1号店舗を、米国・サンフランシスコに開いたことも明らかにした。BlueMix Garageは、サンフランシスコなどでコワーキングスペースを展開する米Galvanizeとのパートナーシップによって実現。BlueMixエキスパートとの共同作業などで、BlueMix上での開発を支援する。