デザインの常識?
編集部
猪子さんはサイトデザインのアートディレクションなどもやられているそうですが、独学ですか?
猪子
デザインは習わない方がいいよね。たとえば、日本で一番いいデザイナーって、僕は鳥山明だと思う。だって、もともと薄気味悪いイメージのスライムを、あんな風にかわいくデザインしちゃうんだよ。ぬいぐるみを若い子が買ったり。
だけど、デザインの主流からすると、とりあえず最低なんだよね。だけど結局そっちの方がいいよね。欧米のいわゆるデザインにだまされているというか。
編集部
なるほど。
猪子
日本人は元々色が好きで、たとえば日本の伝統色で「襲色目(かさねのいろめ)」というのがあるじゃないですか。2色の組み合わせに名前が付いているやつ。なんか色の組み合わせがいっちゃっているんですよね。黄緑と紫とか、デザインの先生に怒られるような配色。だけど、いい組み合わせだと日本人は思っていたんだろうね。格好いい。ピッコロもそうだよね。「黄緑の肌に紫に服は着ちゃいけません!」みたいな(笑)。
編集部
でも、やりすぎてクライアントが怒ったりしないんですか。
猪子
もちろん、それなりに要望には合わせますよ。ただ、みんな結構あんまり本質的に物事を考えていないんじゃないですかね。たとえば、うちの会社のロゴとかめちゃくちゃダサいわけですよ。ひどいでしょ。たくさんの色を使っているし、CMYKじゃなくてRGBだし、とか。
でも、印刷なんてあまりしないしRGBの方がよくないですか。だって光源だよ。光が出ている方が嬉しいに決まっている。虫だって光によってくるし、夜のコンビニは人が集まっちゃうし。
編集部
なんとなくという常識に基づいて、みんな行動していることが多い、ということですかね。
猪子
そうそう。
編集部
逆転の発想ということでしょうか?
猪子
逆転というよりも、常識がなくて何も知らないで作ったからじゃないですか。あれはウチのマリオ好きのエンジニアが作ったんですよ。
編集部
あぁっ、なるほど! 入り口のファミコンもそれですか?(笑)
猪子
やっぱり受付って女の人がいたら嬉しいけど、ウチの会社で女の人がずっと座っているのも変な感じじゃないですか。かといって、内線電話の番号をじーっと探して高橋さんいらっしゃいますか? みたいなのもちょっと格好悪いですよね。
編集部
一理ありますね。
猪子
それよりも「ファミコンじゃーん、やっべー、やってみよー」という受付のシーンの方がおしゃれだと思いません? やっぱ
「affordance」(アフォーダンス)かなと思って。ただ、やっていいのかなと思うみたいで、あまり取ってくれないんですけどね。学校教育の弊害ですよ。ファミコンがあったらやっていいに決まっているじゃないですか!
編集部注
ちなみに受付のファミコン(スーパーマリオ)では、部署ごとに土管があり、マリオを操作して自分の訪ねたい部署に入っていくようになっている。猪子氏によると、単に遊び心を重視しているわけではないらしく、「内線を探して電話をかけるまでの時間と、スタートしてBダッシュして土管に入るまでの時間はそんなに変わらないはず。むしろ、インターフェース的には絶対合理的」と力説。
affordance(アフォーダンス)
物体の持つ属性が、物体自身をどう扱ったら良いかのメッセージをユーザに対して発している、とする考え。
オモロ検索エンジン「SAGOOL」
編集部
さて話は変わって、本題の検索エンジン「
SAGOOL(サグール)」について伺おうと思います。ネーミングは誰がされたんですか?
猪子
運営主体のチームラボビジネスディベロップメントという関連会社あって、そこの社長の案ですね。なんか、ゲンを担ぐ意味で「oo」を入れたいと言っていて。Google、Yahoo!、gooとか、結構多いじゃないですか。その後の命名は弊社でやっていますね。ドラッグ操作で検索できる「ナゾール」とか、クロールロボットの「マサグール」とか。
編集部
SAGOOLでは「おもロジック(旧、おもろアルゴリズム)」という仕組みが使われているそうですが、具体的にはどんな内容なんですか?
猪子
おもロジックのアルゴリズムは秘密です。ロマンチックじゃないじゃないですか。概要を言うと、エモーショナル(感情的)・主観的に面白いと感じる内容を検索できることを目指しています。
編集部
「主観」的に面白いとは具体的にどういうことですか?
猪子
たとえば、あるキーワードに興味があるから、それを打って検索するわけじゃないですか。主観的というのは、その人たちにとって重要な情報を上の方に出すことです。もっと言うと、興味がある人にとって、より有益な情報を提供することですね。
編集部
なるほど。
猪子
たとえば住所といった、誰にとっても必要な情報(キーワードに関連したファクト)を知るにはGoogleは便利だし、確かに今のサーチのニーズはそのような客観的なことを知ることにあると思います。
だから、別に客観的なことを知るのが重要ではないということを言いたいのではなくて、ただ今後、人間のリテラシーがもっと上がって、もっと知的好奇心が上がっていくと、そういうことをもっと知りたいという人が少しずつ増えていくのではないかと思います。より、みんなの多様性が広がって、もっと各ヲタたちがそれぞれの方向に向かい出すみたいなね。
編集部
なるほど、一歩先に進んだ検索エンジンみたいな感じですね。実際、SAGOOLが公開されてから半年くらい経ちますが、反応はどうでしょうか?
猪子
プロモーションは1円もかけていないのですが、なんか知らないけど伸びてますね。ネットユーザが少しは注目してくれているみたいだし、継続的に使ってくれる人がだんだん増えてきているようです。
編集部
技術的な課題とかはありますか?
猪子
急いで開発を進めたので、少し飛び道具っぽいインターフェース面での開発が中心になってしまいました。たとえば、ページをスクロールすると次の検索結果のページが表示される、テキストをなぞると検索結果が表示される、などですね。
それ以外にも、やらなくてはいけないことはたくさんあって、表面上分かりにくい部分ですがベーシックな部分でだいぶサボってしまっています。
編集部
パフォーマンス的な問題ということですか?
猪子
基本的なことを積み重ねなくてはいけなくて、たとえば普通、インデックスの数などが問題になると思うんだけど、ウチの会社で気にしていることはキーワードの精度みたいなものですね。ようは、サマリを表示する部分でもっと適切な引用箇所があるんじゃないか、とか。
編集部
なるほど。確かにここ次第で検索結果の分かりやすさが違う気がします。
猪子
あと今だと、「おもロジック」のランクが高いと、キーワードとちょっと関係ないところも取ってきてしまうんですね。キーワードとコンテンツそのもののマッチの精度をもっと上げていかないといけない。
その他には更新のスピードが現在遅くて、次回の更新まで3~4週間くらいかかってしまっています。これについては3カ月以内くらいに、3日とかに変えたいと考えています。