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話題のあの人にインタビュー!

SAGOOL開発元社長の「おもロジック」な頭の中

プログラマーが語るマーケティングツール開発の日常 第7回


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オンラインマーケティングについて

編集部
 オンラインマーケティングについてはどうお考えですか?
猪子
 以前、共著で「ブランドの達人」(ソフトバンククリエイティブ刊)という本を執筆して、その序文でマーケティングについて触れました。
 
 これは共同事業でやっている「ブランドデータバンク」というサイトの本で、このサイトでは、約3万人の一般生活者に100ジャンルを越えるブランドの所有状況を調査してデータベース化しています。たとえば、ある車に乗っている人は、どの芸能人が好きで、新聞は何を読んでいて、どの街に行っていて、とかですね。そういうのを関連付けて分類しているわけです。
編集部
 どのような内容だったのでしょうか?
猪子
 ここで言いたかったのは、一般的なマーケティングで言われているように「F1層」とかで区切ることには意味がなくて、もっと言うと、人間をクラスタ化することはできないということですね。
 
 できるのは、たとえば、「キリン一番絞り」を飲んでいる人の分布や、その人の他の持ち物の分布が確率で表せるということ。ただ、それはもう個人ではなく、キリン一番絞りを選んだ人の集合が対象なんです。
編集部
 なるほど。明確な境界線で切り分けることはできないんですね。
猪子
 人が色々なものを欲するのは昔から変わらないけど、周りの環境がすごく変わってきているので、企業、ひいてはマーケティングのやり方も変わらなくてはいけない。ちょっとネットの話からは外れるんだけど、結論は3つあります。
 
1. 「今や情報はめちゃくちゃあふれているから、認知したところであまり意味はない」
猪子
 以前は、前もって認知させることがマスコミュニケーションだったけど、それはもうほとんど意味ないからやめよう、と。認知してもすぐに忘却してしまうので。とにかく現状をすばやく把握して、ダイナミックにコミュニケーションの方法を変えたり、バラバラにしたりすることが今後のマーケティングだと思います。
 
 また、人の嗜好は多様で、トライブ(tribe、部族)が無数にある感じ。そのトライブには境界線がなく、クラスタ化は絶対できなくて、確率分布でしかない。だから、パナソニックのLet's noteを持っている人の分布は確率分布では表せるけど、全ジャンルにまたがって人をカテゴライズすることはできない。しかも、それはすごく変化しつづけている。
編集部
 変化が激しいので、その場その場の臨機応変な対応が大切なんですね。
 
2. 「変態的な強みを認識し、一貫したコミュニケーションをとる」
猪子
 そうはいっても常にマーケットを把握するだけの勝負だと、最終的にはスピードと価格の勝負だけになる。それを本気で追求すれば勝てるけど、結構しんどい勝負になるので、それをしつつも変態的な強みを認識して、その圧倒的な強みをもとに一貫したコミュニケーションをする必要がある。
 
 たとえば、ブランドの認識がぶれるのはよくないと思っている。分かりやすくいうと、ブランドランキングなどはあまり意味がない。以前、超強いブランドイメージを持つビールメーカーが麦茶を出したが、強いブランドで同じ麦を使っているのにもかかわらず、まったく売れなかった。
 
 これはすごく単純で、会社のブランドイメージがビールのイメージとほとんど一致していて、ビールを飲みたいときの感情と麦茶に期待する部分がすごい違っていたから。麦茶を飲みたいイメージをそのブランドからもらえない。
 
 つまり、ブランドと麦茶との愛称がすごく悪いのに、絶対的な数値として、ブランド力があるからそれを使えばいいみたいな認識はすごいよくない。だから、ブランドからぶれる内容であれば、ブランドは控えめにしたほうがいい。
編集部
 なるほど。ただブランドだからよいというのではなく、その変態的な(特化した)強みを把握しておくことが肝心だと。
猪子
 たとえば、ひとつ成功事例を紹介すると、ある通販の健康食品があって、それをテレビCMのインフォマーシャルでガンガン流していたけど、うまくいかなかった。
 
 そこで、まずはブランドのコミュニケーションを一貫させた方がいいと考え、今どう認識されているかを把握することにした。ブランドが認識されていなかったとしても、サプリメントを飲むのは健康になりたいからで、何か上位目的があるはずだから、それが何かを3,000人を対象に200文字くらいで聞いてみました。
 
 それまでの広告戦略では、社長が苦労して成功したから「いつか若い頃の夢をかなえよう。そのために健康になって頑張ろう」とコミュニケーションしていたんだけど、ヒアリング結果をテキストマイニングにかけたところ、上位ワードは「毎日楽しく仕事ができる」という内容だった。
 
 つまり、「いつか」というのはどうでもよくて、「ちゃんと毎日まだ仕事ができる」というのが高齢者にとって、少なくともその商品を買ってくれている人にとっては、重要な想いだったわけ。その商品自体の強みではないかもしれないけど、少なくともそう認識されている。そこにニーズがあるわけだから、そこにコミュニケーションを強化して、一貫したイメージを作っていきましょうと。インフォマーシャルもチラシもコールセンターのやり取りも、そのように変更したら売上が3倍くらいになりました。
編集部
 ネットでも、同じようなことが言えるのでしょうか。
猪子
 ネットの世界だと、そういう難しいことはしなくてもいいかもしれないね。キーワードを次々変えることもできるし。
 
 インフォマーシャルとかだと、どうしても前もって行う仮説検証のプロセスが重要になりますが、インターネットの場合、仮説検証のフィードバックのプロセスがほとんどゼロだから。
 
 ただ、少なくともコミュニケーションとしては、ブランドのあるものであれば一貫してぶれないようにした方がよいですね。あと、顧客からどう認識されているかも重要。
 
 また、ブランド力があるのであれば、今後の生産・新規開発・コミュニケーションに活かして、よりエッジのあるものにしていくことが重要だと思います
編集部
 なるほど。
猪子
 たとえば昔のソニーでいうと、ソニータイマーと悪口を言われながらも、わくわくするものを次々と出してくれたわけじゃないですか。それがブランドになって最終的に格好よくなったわけで。逆に、MBAだの、マーケティングだの、デザインだけおしゃれになったりしても、わくわくしないですよね。そうしたら、ブランドの変態性はなくなるし、コミュニケーションもよく分からなくなってくる。そういうのはよくありません。それらをもっとデータドリブンにやる、というのが2つ目の結論。
 
 変態性をどうやって作っていくかは、一般的にテキストマイニングを使うのがソリューションなんだけど、他にもその企業ならではの強みをWebで表現できたりするといいですね。
編集部
 最後の3つ目はどういう内容なのでしょうか?
 
3. リアルタイムに分析・把握する
猪子
 3つ目は、先ほどのアプローチに対して、それをすぐに把握しようということですね。
 
 たとえば、「問合せメール」があった場合、単に対応だけするもの大事だけど、顧客の本質的な変化みたいなのが隠れているから、ちゃんと分析して今後の戦略に役立てるとよいですよね。裏でテキストマイニングのエンジンを入れて分析したり、マスコミュニケーションしたりと、さまざまなコミュニケーションが考えられます。商品を出すことそのものもコミュニケーションだと思うし。
 
 それを常にほぼリアルタイムで知るという仕組みを企業に入れることがすごく重要で、そういうことを弊社が可能にしますよ、ということが言いたかった。
 
 例えば、Webの世界ではユーザビリティとかだけにフォーカスが当たっていてますよね。それなりに効果はあると思うけど、僕はそれほど大事じゃないと考えています。いいサイト内サーチが入ればそれでいいじゃないですか。後は関連性のある項目にリンクを貼ってあげればいい。最近、弊社でもいいサイト内サーチ売っているんですよ(笑)。
編集部
 確かに始めて訪れたサイトとかだと、検索する方が分かりやすそうですね。
猪子
 階層化して欲しい情報に行きつきやすくするといっても、ユーザーは自分でサイトを作ったわけではないので、実際どこに自分の欲しい情報があるなんて、すぐには分からないじゃないですか。インターフェースだけでどうこうしようとするのは無理がある。
 
 そうではなくて、たとえば弊社が担当したizaを例にすると、コンテンツに対して関連性のある、特集や辞書、ニュース、ブログ、写真など、さまざまなものにリンクが貼られるようになっています。だから、あるニュースを読んでいて、そういえば「朝鮮総連」ってなんだっけというときに、すぐに解説を出したり、他のニュースを調べたり、写真やブログを出したりできれば、別にきちんと階層化してディレクトリ構造をしっかり作って、サイトマップを作ったりしなくてもいいじゃないですか。その瞬間瞬間に、いいサーチすればいい。
iza(イザ!)の関連ニュース(株式会社産経デジタル)
 
 実際、日本は遅れてしまっているのですが、現在の主流はそうなっています。たとえば不動産のサイトでいうと、日本の場合、「借りる」→「首都圏」……でディレクトリをドリルダウンしていく形ですが、欧米では「サンフランシスコで3LDKで探したいんだー」という感じ。これでいいじゃないですか。
 
 ユーザビリティというのは幻想で、いいサーチでしょ、と。いいサーチで入って、ある情報までたどり着いたら、コンテンツマッチングとか、レコメンデーションエンジンで横につなげていけばいいじゃないですか。サーチで入って、あとはマッチング。サーチ&マッチングでサイトは作られる。ユーザビリティじゃなくて、サーチ&マッチングなんですね。
 
 あと、ブランドに関していうと、保険を買うとか商品を買うとか、明確な目的がある場合にはユーザビリティが重要だけど、場合によっては、体験とか体感とか、記憶や感動につながるイメージが重要じゃないでしょうか。ユーザビリティが少々下がったとしてもそういう体験をさせる。Webは、その企業がもつ変態性を明確にした上で、なにかを体感させるのがいい。
編集部
 まとめると、どのような感じでしょうか。
猪子
 3つとも、ある程度規模の大きい企業が、インターネット以外でマーケティングするには、マーケティングの概念そのものを変えないといけないし、テクノロジーを使えば、それなりにソリューションできますよ、ということが言いたかった。だからネットとあまり関係ないよね。
 
 でも、ネットの世界はこんなことよりももっと先に行っちゃっているんで、極論するとインターネットには、こんなマーケティングは必要ないかもしれないね。たとえば、Googleのリスティング広告などがまさにいい例。「虫歯」「歯医者」と検索している人に、歯医者の広告を出しましょうという話だからね。「顧客が捕まえられそうなキーワードを買え。以上」って話じゃないですか。

主観や感情をテクノロジーにする

編集部
 今後、チームラボとしてやってみたいことは何かありますか?
猪子
 携帯のサーチをやってみたいですね。
編集部
 面白そうですね。
猪子
 でも、やらなきゃいけないことは多くて、とりあえずSAGOOLの精度を上げて、改良をどんどんしていきたい。たとえば、動画を探すときに本当に便利とか。
編集部
 たとえば、どうすると便利になるんでしょうか?
猪子
 サーチそのものは、現状として客観的なファクトが重要という話をしたけど、文章以外のサーチになると、逆に客観的なサーチってあまり重要じゃなくなってくると思います。たとえば、富士山の写真や動画を探しているときには、やっぱり自分が綺麗だと感じるものをみたいじゃないですか。
 
 そういった、主観とか感情とかいったものを、もっとテクノロジーにしたいですね。それらは今までテクノロジーにならないとされてきました。科学の定義が「客観的で普遍的で再現性があること」だから、客観的な現象しかテクノロジーにならない。
 
 だけど、客観的じゃなくて、普遍的じゃなくて、再現性がないものもテクノロジーにしちゃった方がよいと思うんですよね。
 
 たとえば、面白い順に表示するっていうと、たぶん「面白いの定義はなんだ」という質問が出ますよね。それは客観主義に侵されていて、別に定義なくてもいいと思います。定義がなくても科学になる。
編集部
 なるほど。それは楽しみですね! 今日は、どうもありがとうございました。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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