DIFF(差)にも注目しよう
はじめのうちは、メンバーによってコンテキストが一致しなかったり、スキルに差があったりするために、カードの数値が完全一致することは少ないでしょう。数値の絶対値よりもメンバー間の数値の差の方が重要です。「2と3」といった小さな開きなのか、「2と13」といった大きな開きなのかを見ましょう。
大きければ、目指す品質の差や、知識の差、リスクや不安の大きさの差が隠れていることを表しています。差を露呈できていること良しとし、議論や対話を繰り返してプロダクトのイメージを合わせていきましょう。
また、メンバー間の数値の差だけでなく、個人の差も長期的に見ていきましょう。若手メンバーの見積もりスキルがどう変化したかを、プロジェクト開始前と後で比較してみるのです。プランニングポーカーを通してチームで見積もることで、多くのことを任せられるように成長しているのではないでしょうか。
エピローグ
えん魔のプランニングミーティングが終わってから、鎌倉さんを除くメンバーでプランニングポーカーを行った。タスクの規模感を見積もりし、実現可能なようにアサインし直していく。
「いやー、他の人がタスクをどう捉えていたのか分かって面白かったよ」
いつもの、あんまり深く考えていない感じの片瀬さんも戻ってきていた。
「確かに。こんなに見立て違いがあるなんてね。当然だけど得意しているところがそれぞれ違うわけだし」
「……和田塚さん、みんな、ありがとう」
私なんかより何十倍も察しの良い御涼さんは、普段お母さんのような役回りでチームに決して弱みを見せない。このキャラが壊れないよう、みんなが気を使っていることに、御涼さんも気がついていた。
そして、またスプリントプランニングの日がやってきた。プランニングの前にポーカーしないと、アサインの意味がない。鎌倉さんが前回同様に始めようと藤沢さんに声をかけようとしたその時を狙って、私は立ち上がった。
「鎌倉さん、今回のアサインの前に、プランニングポーカーを行っても良いでしょうか」
私より早く、そして力のこもった口調で御涼さんが声をあげた。みんなに緊張が走る。どうなる? 鎌倉さんは?
「良いよ」
え?
「では、さっそく、丸くなってテーブルを囲んで。ポーカーは和田塚さん持ってきてくれますか」
テキパキと、御涼さんを中心にみんな動き始める。何、この展開の早さ。なんかもう一悶着とかないの? きょとんとしていたであろう、私の顔を見て、御涼さんがにっこりとした。
自分のためだけだったら、ただただ抱え込んでいたけど、チームのためなら声を挙げないといけない、御涼さんがそう言っているのが私には分かった。私はうれしさがこみ上げてきた。
「はい! もちろん!」
今回の原則の解説:全員で考え抜く
今回のテーマ「見積もり」でのカイゼンにおける原則は、「全員で考え抜く」です。以下の3点を押さえておきましょう。
- 個々の判断や個人の能力ではなくチームの総力で見立て、多様なスキルを惜しみなく出す
- 背景やコンテキストや意義を共有しながらチームのコミュニケーションの量を増加させ盲点やリスクを減らし質を上げる
- 長期的な成長も視野に入れ、チームでパフォーマンスをアップさせる
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