チームの成長でわかった価値の本質理解と属人性排除、心理的安全性の確保
──アジャイルによる内製化を推進していく中で、どのような課題に直面しましたか?
森鳰:一つ目はオーバーワークです。最初はスクラムを表面的に導入していて、見積もりが甘く残業が常態化していました。改善の時間もなく、私自身も休日を使って勉強し、少しずつ改善を試みましたが、それではやはり続かない……。
そこで、チーム全体で働き方を見直しました。業務時間内で改善する時間を確保して、プロダクトの価値を高めるための改善に注力することにしたんです。転機となったのは『More Effective Agile』という本を全員で輪読したことですね。スクラムの本質を理解し、各プロセスを丁寧に実践することで、少しずつ状況が良くなりました。
大友:当時は、単にアウトプットの量や速さを追い求めていました。とにかく早く、たくさん作らなければという感覚でしたが、そこから考え方が変わったんです。本当にそれに価値があるのか、もっと本質的な部分を改善できるのではないか、と。ゴールの設定自体を見直して、プロダクトの真の価値を考えるようになりました。量や速さだけでなく、質や意義を重視する方向に転換しました。
森鳰:私たちはメトリクスとして、コード量やプルリクエストの数、リプライ頻度などを測っています。でも、それらの数値が減ることを恐れなくなりました。むしろ、それらの活動がどういったアウトカムや事業課題の解決、価値創出につながっているかを重視するようになりました。メトリクスの変化や、それと価値創出の関係性を確認して、どうすればもっと良くなるか、と常に考えています。アウトプットの量より大きなアウトカムを重視するようになり、工数管理も改善しました。
大友:2つ目の課題は、開発知見の不足でした。初期のコードは問題が多く、今でも改修中です。しかし、課題に直面するたびに、それに関係する書籍を購入し、チーム全体で勉強する時間を取りました。チーム内での技術共有会を行い、一つ一つスキルアップしていきました。すると、チームに知見が蓄積され、今では新メンバーへの教育体制も整っています。
森鳰:新メンバーの知識共有やオンボーディングにも苦労しましたね。当初は方法が分からず困りましたが、徐々に改善しています。丁寧に作られたシステムやコードを通じて、新メンバーにチームの思想を学んでもらっています。今の新人は私たちの1年目よりずっと良いコードが書けるようになっていますね(笑)。
──成長のために、個人やチームで行なっていることを教えてください。
森鳰:成長のために、意識していることが3つあります。まずは、"属人性の低減"です。特定の人にしかできない業務はボトルネックになりやすいので、例えばモブプログラミングを導入するなど、チーム全体でノウハウを共有しています。これにより、誰でもどの開発内容にも対応できるようになります。さらにチームの柔軟性と対応力の向上のため、テストや開発を特定の人に限定せず、全員が全般的な知識を持った上で、専門性を活かせる環境づくりを目指しています。
大友:2つ目は、"コミュニケーション"です。基本、リモートワークですが、常時、通話を繋いでおり、バーチャルオフィスのような働き方をしています。そうすると、些細な問題もすぐに拾い上げられるんですよね。日々の振り返りでは、開発の理解だけでなく、相手への伝え方やフィードバックの仕方にも注目しています。お互いの気持ちにも踏み込み、表面的でない深いコミュニケーションを心がけることで、心理的安全性を高め、フラットに意見を言い合える環境を作っています。
例えば、週1回はオフラインで集まるようにし、モブプログラミングやLT会、知見共有会を実施しています。和気あいあいとした雰囲気の中で、新しい技術や知識を学びあうなど、チームの垣根を超えて活発な交流を行っています。
大友:3つ目は、"改善を奨励する"ことです。新しい技術や手法を積極的に試して、常に昨日より今日が良くなるよう努力しています。結果的に、メンバーから自発的に新しいアイデアや提案が出てくるような環境になりました。
森鳰:私自身、チーム内には常に潜在的な課題があると考えていて、まずはそれらを積極的に発見する必要があると感じています。改善を奨励するだけでなく、そもそも課題が隠されないように、どうすれば見える化できるかも大事。だからこそ、メンバーが意見を言いやすい環境づくりをしていくことが肝要です。