スタイラスペン固有のIDである「ペン ID」と「WILL」でできること
ここで話は入力デバイスの話に転換。実はワコムではデジタルメモ時代を見据え、スタイラスペン技術の開発も進めている。それがペン IDだ。ペン IDはその名の通り、ペンごとに固有のIDを持たせる仕組みである。「このようなペンを使うことで誰が入力したのか、入力者の識別が可能になる」と新村氏は語る。ペンの方式は2種類あり一つはBluetooth接続。このペンはMACアドレス(48bit)をIDとしており、ワコムが提供するStylus SDKでIDを容易に取得可能である。もう一方の電磁誘導式(EMR)のペンは、12bit(種類)+32bit(固有)のID形式を採用、ドライバーに付属しているWintab for WACOMで取得する。すでにペン IDに対応したタブレット製品も登場しているという。
ではWILLとペン IDでどのような活用が考えられるのか。新村氏は想定している次の5つのシナリオを紹介した。
ケース1は軽量なデータの保存という特徴を生かしたシナリオである。「例えばWILLという文字をラスターデータ(PNG)で保存すると255KBとなる。一方WILLであればインクデータのみを保存するので、1KBですむ。デジタルカタログへの書き込みなどに便利に活用できる」と新村氏。データの容量を削減するのはもちろん、通信の容量も削減できるのは「大きな魅力」と語る。
ケース2はログインにペン IDを使用するというもの。データベースやKeychainにペンIDを保存しておき、ペン IDに基づいて取得したログイン情報を元に認証局に認証を依頼するのである。「デバイス認証はデバイスにログインした人が所有者として認定されるが、ペン IDは物理的なペンと自分が記憶している暗証番号の組み合わせによりシステムへの認証を行うことで本人を特定する。ただ、ペンは紛失したり落としたりするので、システム内のIDとしてそのまま使用することはお勧めしない」と新村氏は注意を促した。
ケース3はデバイスの共有シーンでの活用。ペン IDをサーバ上で管理することで、どのデバイスを使用してもログインが可能になるため、デバイスの共有が容易になるからだ。「例えば学校。児童にデバイスを1人1台持たせるとコストがかさむ。そこでペン IDを活用しデバイスを共有すれば、デバイスの導入コストも管理コストも削減できるようになる」(新村氏)
ケース4はデータ量が軽量のため通信帯域を圧迫しないという特徴を生かしたリアルタイムコラボレーション。遠隔地にいるメンバーと資料作成を共同で行う際などにも、便利に使える。またメタデータを参照することにより誰が書いたかを追跡可能なのも活用のポイントになるはずだ。
ケース5はストロークデータの蓄積と解析。手書きストロークデータは生体情報であり、センサー情報でもある。「メタデータ、ストロークデータを解析することで様々な活動の解析が可能になる。例えば筆跡鑑定。これまでの筆跡鑑定は静的な字を解析するのが一般的だったが、ストロークデータは筆跡の速さや加速度、空中での動作を取得できる。つまり生体認証のようなことが可能になる」と新村氏は期待を込める。
最後に「WILLを活用してペン入力の可能性を広げていきましょう」と参加者に呼びかけ、新村氏のセッションは終了した。
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