実践的、体系的な知識を学べる「トップエスイー」と
先端領域を究める「アドバンス」
河井:「トップエスイー」の「トップ」は、エンジニアのレベルとしての「頂点」という意味だけでなく、「課題解決の先頭に立つ」という意味も含んでいるのですね。では、「トップエスイー」「アドバンス・トップエスイー」の各コースについて、それぞれにどのような受講者像をイメージしているのでしょうか。「アドバンス・トップエスイー」コースは、従来の「トップエスイー」コースよりも「難しい」という理解でいいのでしょうか。
本位田:そうではなく、むしろ受講者側がすでに持っている知識量や、関心を持っているテーマに合わせて、よりふさわしいコースを選んでもらえるようになったということです。
まず従来からあるトップエスイーコースについてですが、ソフトウェアの開発に関わる仕事に就いておられる方や、ソフトウェアを作る技術に関心を持たれている方が、最新の技術やツールの知見も含めて、改めて体系的に勉強したいという場合に向いています。
2017年度には約40科目の講義を用意しています。これだけのカリキュラムを用意している教育コースはほかにありません。ある程度業務で経験を積んだ上で、今後もソフトウェア技術者として長く現役でいたいと考えていらっしゃる方には、特にお勧めしたいと思います。
新設されたアドバンス・トップエスイーコースについては、近年注目を集めている新たな技術領域に関して、議論や研究を進めながら、その成果を現場での実践につなげていきたいと考えていらっしゃる方に受講していただきたいと考えています。
トップエスイーコースは現場経験がある30代のエンジニアを中心的な受講生としてイメージしていますが、アドバンス・トップエスイーコースについては、技術的にエッジな部分に明るい20代後半のエンジニアにも積極的に受講してもらえると思っています。
シリーズ | 科目 |
---|---|
形式仕様記述 | 形式仕様記述 (基礎・VDM編)、形式仕様記述 (Bメソッド編)、形式仕様記述 (実践編)、基礎理論、形式仕様記述 (Event-B編)(*)、プログラム解析(*)、定理証明と検証(*) |
モデル検査 | 設計モデル検証 (基礎)、モデル検査事例演習、設計モデル検証 (応用)(*)、性能モデル検証(*)、並行システムの検証と実装(*),実装モデル検証(*) |
アーキテクチャ | コンポーネントベース開発、ソフトウェアパターン、オブジェクト指向分析設計、モデル駆動開発(*)、ソフトウェア再利用演習(*)、アスペクト指向開発(*) |
要求工学 | 要求工学基礎、問題指向要求分析、要求工学先端 |
セキュリティ | セキュリティ概論、安全要求分析(*)、形式仕様記述(セキュリティ編)(*) |
ビッグデータ | ビッグデータIT基盤、機械学習概論、ビジネス・アナリティクス概論 |
テスティング | テスティング(基礎)、テスティング(応用) |
クラウド | クラウド入門、クラウド実践演習、分散処理アプリ演習、分散システム基礎とクラウドでの活用、クラウド基盤構築演習 |
プロジェクトマネジメント | アジャイル開発、ソフトウェア開発見積り手法、ソフトウェア設計法通論(*)、プロジェクト支援ツール(*)、ソフトウェア品質指向の戦略的PM手法通論(*)、リスクマネジメント(*) |
共通 | ソフトウェアの保護と著作権 |
河井:「議論や研究の成果を実践につなげる」とは、具体的にどういうことですか。
本位田:例えば、最近では自動車業界において「ビッグデータ」や「人工知能」を「自動運転」に生かしていこうという取り組みが盛んですよね。でも、作られた試験環境で正しく動いたプログラムが、実際の社会の中でうまく機能するかどうかというのは別の問題です。本番環境では、開発時には想定できなかったようなことが、多々起こります。しかし「自動運転」を実現するソフトウェアシステムは、想定外の事態が起きたときの挙動を含めて品質が保証されなければ、商品化することは難しいわけです。
こうした新たな領域に関する「ソフトウェア品質保証」の方法論については、まだまだ前例が少なく、標準化もされていません。そもそも、誰かが誰かに、その方法論を「教えられる」状況ではないのです。
アドバンス・トップエスイーコースでは、こうした先端の課題に対して、最新の事例や研究成果を足がかりにしながら、どこまでのことができるのかを、同じテーマに関心を持つ人と議論し、研究していく場を提供したいと考えています。
「アドバンス」では1年かけてじっくり追究
-「プロフェッショナルスタディ」「ゼミ」で取り組む
河井:アドバンス・トップエスイーコースには、「プロフェッショナルスタディ」と「最先端ソフトウェア工学ゼミ」の2つの軸がありますが、それぞれはどういう内容なのでしょうか。
本位田:「最先端ソフトウェア工学ゼミ」では、全受講生と複数の講師が、開発現場の問題解決に役立つ最先端のソフトウェア技術について、1年にわたり調査、試行、報告、議論を行い、最先端の知見を共有することを目指します。
「プロフェッショナルスタディ」は、さまざまなゼミや講義を通じて、最先端の技術分野に関して自分なりに発見した課題について、それに対する「解決策」や「評価・普及」の方法について、1年をかけて追求してもらうという内容になります。プロフェッショナルスタディについては、基本的に講師が1対1での指導を行います。
アドバンス・トップエスイーコースの受講者は、トップエスイーコース向けに設定されている講義を自由に受講できますが、最終的な「修了」の要件に講義の単位は含まれません。自分にとって必要だと感じる講義があれば、任意に選択して受講できるといった形ですね。
河井:ちなみに、従来のトップエスイーコースにも「ソフトウェア開発実践演習」があるのですが、アドバンス・トップエスイーコースの「プロフェッショナルスタディ」との違いはどこになるのでしょう。
本位田:トップエスイーコースのソフトウェア開発実践演習では、基本的に講師が用意したテーマに関して、受講者がそれぞれに深掘りするという形式をとります。一方、アドバンス・トップエスイーコースでは、受講者自身がテーマを見つけ出すところから行うところが最も大きな違いになります。
演習の期間もトップエスイーコースでは標準で「3か月」と短いものになっています。アドバンス・トップエスイーコースでは、1年をかけてじっくりと一つのテーマを追究できるので、単なる「問題提起」や「修了制作」だけでなく、できれば、それを自分の職場や業務の中でどのように活用していけるかといったところまで、実証を進めてほしいと考えています。
河井:先日、トップエスイーを修了された元受講生の方による座談会を行ったのですが、本来3か月の実践演習を、自ら志願して半年に延長し、それでももう少し時間をかけられればさらに良かったと感じたという方がいらっしゃいました。
本位田:3か月という期間は、非常に短いですね。特に自らテーマを設定しようとすると、それが決まるまでに1か月は掛かるでしょう。結果として、制作のために手を動かせる時間はさらに短くなってしまいます。また、こうした取り組みは1人でやってもいいのですが、同じ問題意識を持った複数のメンバーであたることで、成果にも、より広がりが出てくると思います。
河井:元受講生からは、他の受講生との交流がトップエスイーの魅力の一つだというお話も出ていました。グループ演習はもちろんですが、講義の間のちょっとした情報交換とか、ゼミの懇親会で仕事や職場の課題を話すことで、得られるものが多かったという感想が聞かれました。
本位田:ここで培った人脈が、受講後も続いていくというのはとても嬉しいですね。運営側でも、修了者を対象にした勉強会などを多く企画していきたいと考えています。修了後のイベントには、受講中には会う機会のなかった先輩、後輩も多く参加しています。それぞれに共通の悩みや課題にどう取り組んでいるかといった話が共有できる場は、非常に価値があるのではないでしょうか。