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開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー

チームで共通認識を持つためのカイゼン~「ファイブフィンガー」と「ワーキングアグリーメント」

開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー 第5回


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ちょっとしたテクニック

問題が出てこない場合はどうする?

 「問題は?」と聞いてもなかなか出てこないこともあるでしょう。そんな際は、下記を意識すると問題がぞろぞろと出てくるかもしれません。問いかける際に使ってみると良いでしょう。

プロジェクトの目的
  • 迷ったときの判断基準・意思決定基準
  • バックログの優先順位の付け方
働き方に関すること
  • リモートワークやコミュニケーションなどチームでの働き方
  • 相談の仕組み、報告の仕組み、同期をとるタイミング
  • マンネリ化したプラクティスをカイゼンするタイミング
  • 休暇をとる際の連絡方法
  • 業務に集中する時間や相談する時間
日々のことやタスクのルール
  • プルリクエストやコミット、デプロイメントのルール
  • Slackやチャットでの約束事

見直していいの?

 1回作ってみて、働きにくくなってたら見直せば良いですし、チームで決めるのだから見直す頻度やタイミング自体もチームで決めて良いのです。

 また、決定したワーキングアグリーメントが全く守られていないなら、すでに形骸化しているということでしょう。上滑りのスローガンになっている可能性があります。生きた約束事になっていなければ見直しましょう。

 逆に、浸透したら、次回の見直し時にその項目は外しても良いでしょう。モラルに変わっているのであればチームとして成熟した証で、素晴らしいことです。

意見が分裂したらどうする?

 問題の根本原因と本質を見極めてからの約束事作りは、とても難しいかもしれません。誰かが良いと思っても誰かが不利益をこうむってしまうような場合や、約束事に縛られて、メンバーが堅苦しく感じたりする場合です。視座も視野もスキルもさまざまなメンバーで構成されたチームで合意するのですから、大変でしょう。役割や立場が異なれば意見も違ってくるでしょう。

 こんなときこそ、ファイブフィンガーを使ってみましょう。言いたいことを言えないまま、無理なワーキングアグリーメントが出来上がっても、その約束事を守るのは辛いかもしれません。守れないかもしれません。個人の思いをきちんと表明するのです。

 保守的な人、チャレンジングな人、楽観的な人、悲観的な人、それぞれの意見を表明し、多様性を認めることからはじめましょう。多様性を認めた上で、チームとして何を実現したいのか? チームとして達成すべき共通のゴールは何かを考えた上で、その共通のゴールを達成するための手段を考えましょう。その際に、チームやプロジェクトとしての目的や価値に立ち返らざるを得ないかもしれません。そうであれば、チームビルディングの必要性が浮き彫りになったということです。こういった発見もチームとしては重要なことです。

実施すると認知が生まれる

 一度、実施すると脳内にワーキングアグリーメントのスペースが出来上がります。意思決定やメンバー間でのコミュニケーショントラブルなどが発生したときに、「ワーキングアグリーメントの候補になるのでは?」と思うようになるでしょう。

新メンバー向け

 新しいメンバーがチームに参画する際にも大いに役立ちます。チームが大事にしている価値観や行動規範を伝えやすくなるうえ、入る方も文化が分かれば心理的ハードルが下がるでしょう。また、中途採用面談で、応募者とチームの価値観が合致するかの判断基準に使ってもいいですね。

エピローグ

 藤沢さんのファシリテートは、いつものように安定していた。私たちはファイブフィンガーで、コードの保全への不安を5本の指で表現した。境川さんだけ5本、あとは皆1本だった。

 この不安を解消するために、あいまいだったチームのレビュー運用をワーキングアグリーメントとして具体的に定義する。私たちは必ずpull requestをあげて、本人以外の誰かのレビューを1人以上受けることを約束にした。

 境川さんは、何の反論もせず、これらのワークとチームの意思決定につき従っていた。藤沢さんは抜け目なく、この様子を静観していた鎌倉さんを最後に巻き込み、チームの判断についてコメントを求めた。鎌倉さんは、ひとこと「良いんじゃない」と言っただけだった。それでも、チームの総意感は圧倒的に高まった。

 私は、藤沢さんをすごいと思った。私や片瀬さん、御涼さんだったら、境川さんに恐れをなして、途中でなあなあで終わらせていたに違いない。藤沢さんは、自分がチームにとって必要だと思うことを躊躇なく実行する。ある意味で、周りをかえりみないとも言えるが、こうしたコンフリクトのときは、とてつもなく頼りになった。

 やいのやいのと、ワーキングアグリーメントをプロジェクトルームの壁に貼り出す、藤沢さんたちを尻目に、境川さんがぽつりとつぶやくのを私は聞き逃さなかった。

「……まるでごっこだな」

今回の原則の解説:共通認識を持つ

 今回のテーマ「ファイブフィンガーとワーキングアグリーメント」のカイゼンにおける原則は、「共通認識を持つ」です。以下の3点を押さえておきましょう。

  • 露呈表明できる場を作り、リスクや新アイデアを共有し、認識の違いや異変を全員の五感で感じる
  • 多様性を認め、共通善を見つけ、期待のズレを減らし強いチームになる
  • 手戻りを削減し、情報もプロセスも流れを良くして、全員で価値を出す

本連載を深く理解するには、書籍『カイゼン・ジャーニー』の併読がオススメ!

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カイゼン・ジャーニー
たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで

著者:市谷聡啓、新井剛
価格:2,484円(税込)

【連載との違い】

CodeZineの連載では、現場におけるチーム活動でのシーンを想定して実践的な作りにしていますが、コンパクトにまとめているため、個人が根本を深く理解するのに向いていません。理論や原理原則を体系的にまとめた書籍『カイゼン・ジャーニー』を精読いただくと理解が深まり、より生きた知識が身につきます。ぜひお買い求めください!

実践編セミナー「機能するチームを作るためのカイゼン・ジャーニー」開催!

 CodeZine Academyにて、著者の市谷氏、新井氏を講師に迎えたセミナー「機能するチームを作るためのカイゼン・ジャーニーを開催します。「講義」と「ワークショップ」で、書籍や連載の内容をさらに実践的に学ぶことができます。以下の通り、申し込み受付中です。

  • 開催日時:2019年7月12日(金)10:00~18:00
  • 受講料金:54,000円(税抜価格50,000円)
  • 場所:株式会社翔泳社 セミナールーム
  • 詳細・申し込み:https://event.shoeisha.jp/cza/20190712

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この記事の著者

市谷 聡啓(イチタニ トシヒロ)

 ギルドワークス株式会社 代表取締役/株式会社エナジャイル 代表取締役/DevLOVEコミュニティ ファウンダー サービスや事業についてのアイデア段階の構想から、コンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイル開発の運営について経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

新井 剛(アライ タケシ)

 株式会社ヴァル研究所 SoR Dept部長/株式会社エナジャイル 取締役COO/Codezine Academy Scrum Boot Camp Premiumチューター CSP(認定スクラムプロフェッショナル)/CSM(認定スクラムマスター)/CSPO(認定プロダクトオーナー) Javaコンポー...

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