解説 「ファイブフィンガー」と「ワーキングアグリーメント」
今回の解説は藤沢が担当します。それぞれが自分の考えを表明できず、他のメンバーの考えていることが把握できないと、今回のように無用なやり取りや手戻りが発生します。
また、納期までのゆとりがない時期では、チーム状況は悪化し、雰囲気がギスギスする悪循環へと変遷するでしょう。モチベーションもなく、パフォーマンスを発揮しづらくなるわけです。
価値観が異なるメンバーで、行動もバラバラでは、チームとしては機能しません。各自が自分の考えを否定されずに表明できる場で、チームの向きをきちんと決め、期待違いを減らし、共通理解を深めましょう。
まずは、ファイブフィンガーのやり方から説明します。
解説1「ファイブフィンガー」
なぜ、メンバー一人ひとりが考え方を表明するの?
以下の目的で実施しましょう。
差分(diff)を把握
- お互いの認識の違いに気づき、期待のズレを減らす
- プロジェクトの状況や各自の健康状態など、いつもとの異変に気づく
耳を傾ける時間
- 課題に対して、お互いにどう認識しているのかは、なかなか分からない。全員がメンバーの話に耳を傾ける
- もしかしたら自分自身の考えも分かっていないかもしれない。自分の心にも耳を傾けてどう考えているか、なぜそう思うか向き合う時間
- 誰もがはじめてやることは初心者なので、他の人をばかにしたり、あざ笑うようなことをしてはいけない
問題やリスクや新アイデアの共有
- 他のメンバーが過去のプロジェクトで経験した懸念点やリスクの共有
- 固定概念にとらわれることなく、しがらみのない新アイデアの期待
ファイブフィンガーとは
5本の指で手軽に自分の考えを表明できるプラクティスです。今のチームの状況やプロジェクトの進捗状況、自分の考え方などを、下図のように表現します。
上位職者や声の大きい人の意見で物事を決定するのではなく、チーム全員の正直な意見を聞いて判断・決定していく場です。チームになんとなく存在する圧力や、「こうでなくてはいけない」といったバイアスを除いて、実際はどう思っているのか、本当はどう思っているのか、各々が考え抜きましょう。それぞれが本心を表明できるのが、ファイブフィンガーの良いところなのです。
また、部材を用意する必要がなく、少しの時間があればいつでも実施できます。この気軽さがコミュニケーションを促進します。発言する場、傾聴する場、情報収集の場となるわけです。その場ですぐに実施できるので、朝会やミーティングの際に試してみましょう。
実施方法
「ファイブフィンガー」の手順は以下の通りになります。ファシリテーションの例として、藤沢のセリフを参考にしてみてください。
5本の指のレベルを説明する
「5本の指を使って本当はどう思っているのかを表明してください。5本がうまくやれている側で、1本がぜんぜんダメで絶望的側です」
テーマを簡潔に話す
「今回のテーマは『今のわれわれ状況は期待のズレがなくチームとして機能しているか?』です」
時間を設定しメンバーそれぞれに考えてもらう
「1分ほど、自分の心に向き合ってください。発言はや表明はまだです」
時間経過後、「せーの!」で決めたレベルを、手を挙げて指で表現する
「1分経ちましたが決まっていない人はいますか? いなければ『せーの!』で手を挙げてください」
経験者やリーダーの発言の後では不安を発信しづらいので、まず最小の本数の人の意見を聞き、後に最大の本数の人の意見を聞く
「遠慮して不安を無理に抱え込む必要はありません。まずは最小値の人からその理由を話してください。次に最大値の人の理由をお願いします。」
周りの人の意見を聞き、懸念点を解消する方法を簡潔に話す
「不安点やリスクが出ました。斬新な新アイデアも出ました。他のメンバーはこれらの情報に関してどう思いますか?」
全員の意見が出たことを元に、次にどうするか決定する
「懸念点や新アイデアなど共有され、共通理解が進んだので次にどうするか決めましょう」
次の行動を簡潔にまとめる
「では、決定事項を実施していきましょう」
ちょっとしたテクニック
いきなりうまくやるのは難しいと思うので、コツを紹介します。
テーマは具体的に
なるべくテーマを具体的に絞ると良いでしょう。例えば、「今日のミーティングは良かったか?」よりも、「今日のミーティングで決定したテストファーストの導入は来週金曜日までに実現できているか?」が良いでしょう。
合図と確認
ファシリテーターから指の本数を考える時間を指定するのではなく、本数が確定したら胸の前に、親指でサムアップのサインをしてほしいと促してみましょう。準備できたかな?まだかな?の迷いが減るわけです。こういったメンバーの小さなアクションも時間短縮の貢献となります。
笑いが起これば良い兆候
日頃から気軽にファイブフィンガーを続けていくと良いでしょう。言いたいけど言えない状況から、言える場が存在することによって気軽に表明できるチームになります。正直さの表明に笑いも起きるのではないでしょうか。