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創業から14年、技術集団としての「ピクスタ」は降りかかる数々の課題をいかに乗り越えて成長を成し遂げたのか【後編】

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合宿の成果を足がかりに立ち上げた「技術推進チーム」で改善を推進

和田:結果的に、その合宿は成功したのでしょうか。

後藤:スケジュール的にはギリギリだったのですが、何とか終わらせることができました。合宿の成果として、重要な機能に対するE2Eテストが一通り用意できたことや、技術メンバーのスキルを底上げできたことに加え、「比較的スパンの長い技術改善を専門とするエンジニアが複数いれば、現実的なスピードで改善を進められる」ことへの期待感が、社内に生まれたのは大きかったと思います。

和田:全エンジニアで取り組んだとのことですが、そのために工夫したことはありますか。

後藤:どういうプロセスで進めていくかの準備は、事前にかなり時間をかけてやりました。また、全員にテストを書いてもらうために、その期間の不具合対応などについては、合宿に参加しないリーダー陣ですべて引き受けるという状況にしておきました。この合宿については、技術的な話も含めてピクスタのブログに書いてあります(参考記事:「エンジニア総出でE2Eテストを拡充した話」)。

和田:合宿で成果が出たことをきっかけに、晴れて後藤さんをリーダーとする新チームが発足したわけですね。

後藤:すぐ後に、現在の「技術推進室」の前身となる「技術推進チーム」ができました。当初は自分を入れて3人のチームとしてスタートしましたが、このチームが専任として技術改善に取り組める体制ができたことで、Webアプリケーションの一連の開発サイクルに関わる、さまざまな課題の解決を加速できました。

和田:これまで1人で改善にあたっていた後藤さんが、改善チームを率いていくにあたって、特に問題となったことはありましたか。

後藤:これはマネージャーとしての問題なのですが、やはりメンバーとはスキル差があるので、自分が理解できる課題の粒度で、そのまま仕事を振ってしまうと、メンバーが何をやっていいのか分からなくなるといったことが何度かありましたね。そこから、僕も星のようにマネジメントについて勉強するようになりました。

和田:マネジメントについては、どうやって学んでいるのでしょう。

後藤:エンジニアリングとは直接関係しないのですが、ダイヤモンド社から出ている『部下育成の教科書』という本を読み込みました。この本では、社会人の成長過程を段階的に定義していて、その時々で目指すべきレベルがとてもイメージしやすいですね。マネジメントについては、その本に書かれていることの実践を続けてきた1年でした。

後藤優一(ごとう・ゆういち)氏

ピクスタ株式会社 プラットフォーム推進本部 開発部 技術推進室 エンジニア 室長 後藤優一氏
ピクスタ株式会社 プラットフォーム推進本部 開発部 技術推進室 エンジニア 室長 後藤優一氏

 ピクスタ プラットフォーム推進本部 開発部 技術推進室 エンジニア 室長。学生アルバイトから、2015年に新卒としてピクスタに入社。入社後は先輩社員とともに「PIXTA」のマイクロサービス化に携わる。2017年1月、技術改善を専業とする「技術推進チーム」(現、技術推進室)が発足したのを契機に、同チームのリーダーに就任。現在は、海外展開の加速を目的とした同サービスのリアーキテクティングに挑戦している。

ビジネスのアジリティ向上を技術面から支援することがチームの使命

和田:後藤さんのチームについて、現状と今後の展望を聞かせてください。

後藤:2019年のはじめに「技術推進チーム」から、部に準ずる「技術推進室」となり、会社的にもその存在意義を認めてくれていると感じています。

 最初にチームができたときに、「サービス開発の仮説検証サイクルにおいてボトルネックとなる事項を技術で解決することで、ユーザーに価値を速く、継続的に届けることに貢献する」というミッションを掲げたのですが、これについては、今後も継続していきます。

和田:そのミッションについて、もう少し詳しく教えてもらえますか。

後藤:技術改善の専門チームを立ち上げるにあたって、その特性から「新しいこの技術を入れたい」というような「技術視点」での相談が増えるだろうと予想していましたし、実際にそうでした。先ほど挙げたミッションは、技術推進室が、開発メンバーの問題意識や技術状況の変化を見据えながら「ビジネス価値へ貢献する」ための技術導入、改善を行うための組織であることを明示したものです。

 チームが発足してからの2年間で、これまでピクスタ内にあった技術的なマイナス要因を、限りなくゼロに近づけることができたと思っています。現時点で、技術的負債を完全には取り除けたわけではありませんが、それを進めていくための基盤はできました。今後、「ゼロ」を「プラス」に転じていくために、ピクスタのビジネス展開そのものを加速できるような、技術的な施策を進めたいと思っています。

和田:技術的な改善が「ビジネスにどれだけ貢献できたか」の効果測定は難しそうですね。

後藤:残念ながら、現状では具体的な数値を示すことは難しいですね。その代わりと言ってはなんですが、マネジメントへの「説明」は、丁寧にやるようにしています。ピクスタでは半年に1回、評価の基準となるチームの目標設定をするのですが、その場で、自分のチームがやろうと考えていること、それによって期待できる効果を、納得してもらえる形で説明するようにしています。

和田:現段階で、具体的に進めようとされている取り組みがあれば教えてください。

後藤:例を挙げると、海外でのビジネス展開をより加速できるようなシステム基盤の改善があります。ピクスタで、最初に海外展開を意識したシステムの国際化を行ったとき、やったことというのは、端的に言ってしまえばUI言語の切り替えを可能にする作業でした。ただ、その後、現地でのビジネスを進めるに従って、それぞれの拠点でのビジネスニーズに応じた「ローカライゼーション」の必要性が出てきました。

 例えば、タイで展開しているサイトに「英語版」を設けたいといったニーズが出たとしても、現状のアーキテクチャではそれができないんですね。これはあくまでも例ですが、そのほかにも各拠点で「ビジネス的にやりたいこと」があるのに、アーキテクチャ上の問題から、それに応えられない部分というのが、少なからず出てきてしまっています。こうした状況を改善していくことで、ビジネス価値に貢献できるということを示していきたいですね。

 この課題に関連して、基盤システムのリアーキテクティングを進めています。この会社で私が最初に取り組んだ「マイクロサービス化」のプロジェクトが頓挫してしまった原因の一つには、サービス化にあたって「とりあえず、まとまっていそうなところをサービス化する」という形で進めてしまったことがあるのではないかと感じています。

 ビジネスをしっかりと回していくためのバックエンドのシステムと、エンドユーザーとサービスをつなぐフロントエンドのシステムというのは、個別のリリースサイクルを持っています。ピクスタでは現状、これらが一枚岩の上に同居してしまっていて「ユーザーエンゲージメントを高めるためにフロントエンドを改善したのですぐにリリースしたい」というニーズに応えるのが難しくなってきているのですね。

 近年では、「SoE」(Systems of Engagement)と「SoR」(Systems of Record)という視点の重要性が注目されていますが、「どういう組織の」「どんな課題を解決するための」システムなのかを軸に、サブシステムとしてサービス群を切り出すことで、そうした状況を改善していけるだろうと考えています。

和田:「ビジネスのアジリティを高めるためのシステム」という視点を持ち、ビジネスの意思決定や展開に対して、システムが技術的な面でブレーキをかけてしまわないような環境作りを考えているということですね。そのような視点で、課題を定義し、技術的な改善を進められる状況になったという意味で、ピクスタの技術集団としての成熟を感じています。

 技術集団の直面する問題や、その時に有効な解決策というのは、それこそ企業によって千差万別だと思います。しかし、何度も困難な状況に陥りつつも、それを乗り越えるために、個人としてのエンジニアがどう考えて、どう動いたか。また、組織をどのように変えていったのかという今回のお話しは、他の多くのエンジニアにとって、参考になり、励みにもなるものだと思います。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

柴田 克己(シバタ カツミ)

フリーのライター・編集者。1995年に「PC WEEK日本版」の編集記者としてIT業界入り。以後、インターネット情報誌、ゲーム誌、ビジネス誌、ZDNet Japan、CNET Japanといったウェブメディアなどの製作に携わり、現在に至る。現在、プログラミングは趣味レベルでたしなむ。最近書いているの...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/11746 2019/10/08 11:00

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