組織変革における3つの重要ポイントとDisciplined Agileの活用
それではそうした仕組みを実現するために、NECではどのような組織変革を行ってきたのか。自律と規律の調和のために、自律型チームに対するマネジメントを前提とした組織のアップデートポイントとして3点紹介した。
まず「①ビジョンの共有」については、スピードを高めるためにチームの自律性を強化するものだ。NECでは「Why」という目的を共有し、いかに実現するかという「How」はチームに任せるというアプローチをとっている。そして「②多様な事業環境への対応」は、顧客のニーズやチームの状況の“多様性”を前提とし、それぞれの働き方・多様性に合わせた柔軟な選択肢を用意している。大内氏は、「従来は割とカチッと『こうやりなさい』と定めて、それに合わせることで効率を高めてきたが、アジャイルの場合はそうはいかない。多様性が重要になってきている」と評した。
そして、「③顧客中心主義の実現」については、顧客ニーズの実現を第一として、その実現者である対応チームが最大のパフォーマンスを発揮することが重要との考えを述べている。そのためには、組織のガバナンスがチーム活動の妨げになってはならず、一方で必要とする支援ができるよう適切な関与が必要というわけだ。
これらの実践は、次の図で示されているように、組織幹部、制度管理チーム、アジャイルチームの三位一体で構成された変革チームによって推進される。市場をとらえ、組織が目指す姿としてビジョンを明確にし、組織内に浸透させるのは組織幹部の役割であり(①ビジョンの共有)、制度管理チームは個々に状況の異なるアジャイルチームに対して硬直的なルールではなく多様性を考慮した柔軟な指針と(②多様な事業環境への対応)、アジャイルチームが必要とする支援を提供する(③顧客中心主義の実現)。さらにこれを事業単位で変革チームを支援するのが大内氏の所属する組織横断のアジャイルプロフェッショナルグループである。
「①ビジョンの共有」について、大内氏は「多様性の時代にチームが自律的に活動しなければ対応が難しい。しかし勝手気ままに動いては、組織の意思とずれてしまう。チームが組織の意思とずれることなく自律的に活動するためには、組織がビジョンを共有しゴールを明確にする必要がある」と解説する。
また「②多様な事業環境への対応」については、市場や顧客課題の多様化に合わせ、対応するアジャイルチームが向き合う課題や状況も画一的ではなくなっている。したがって、これに対する解決や支援においても従来のような唯一解では解けないケースが増えており、前提に合わせて柔軟に選択できなければならない。NECではこれを実現するためのアプローチとして、PMIが推奨する「Disciplined Agile」をNECが持つノウハウと組み合わせて活用している。
アジャイルを成功に導くツールキット「Disciplined Agile」とは
Disciplined Agileは、チームおよび組織の最善の働き方をゴール指向で検討するために、実用的な戦略やプラクティスを豊富な選択肢として提供するツールキット。フレームワークではなく、あくまでプロジェクトやチームの状況に応じて最善の働き方をガイドし“選択”させることによって、アジャイルを成功に導く。NECではこれを取り入れるにあたり、2022年6月にPMIとパートナーシップ契約を締結。アジア・パシフィックリージョンで初のパートナーとして活動を開始している。
「③顧客中心主義の実現」に関しては、従来はIT領域でもプロダクトアウトとして製品を作ってから市場に展開するという考え方が多かったが、近年はいわゆるマーケットインの必要性が高まっている。そのためには顧客ニーズを素早く見極め、それに応じた価値をタイムリーに提供していくことになり、組織としても、顧客に最も近い現場がいかに自律的に動けるよう支援するかが重要である。