プロダクト開発における市場との対話の重要性
川口氏のチームが実際に実施したインタビュー数は、最終的に11件。マインドマップにある黄色の部分を基に、社内向けのレポートとしてまとめた。インタビューを通じて「解像度が上がった」と手応えを感じた川口氏だが、社内の反応は意外にもシビアで、「すぐに受け入れられることはなかった」と肩を落とす。
とはいえ、強い反論も出なかったことを川口氏は前向きに評価する。「コツコツと回数を積み上げたインタビューという作業に対して、思い込みや感情だけで反論できる人は少ない。インタビューを通じて寄せられたポジティブな反応が『アリバイ』となり、『この方向性でプロダクト開発を続けてもいいんだ』という機運が醸成された」というのだ。
こうしてプロダクト開発は、「何を作るべきか」という決定フェーズに移ることになった。情報が限られる中での意思決定は困難を極めるが、「たとえ判断ミスをしても、たかだか1カ月が無駄になるだけだ」と割り切って考え、なるべく早く開発に進めることを優先した。
次は、実際に作り始めるフェーズだ。VC(ベンチャーキャピタル)からの「作ってから売るのではなく、まず売れ。売れたらデザインして、その後ようやく作れ」というアドバイスに則り、「あたかも確固たるプロダクトが存在するかのように宣伝し、売り始めた」と川口氏。そのデータを基にテストや分析を重ね、少しずつ知見を蓄積していった。
「この段階まで進むと、開発に納得していなかったセールス担当者も、だんだんとプロダクトを『自分のもの』と思うようになる。そうするとチームの気持ちが盛り上がってくる」
こうして生まれたプロダクトは、現在ベータ版を一部ユーザーに提供し、フィードバックを集めている段階にあるという。
最後に川口氏は、「プロダクト開発を始める際には市場との対話が重要」であることを改めて強調する。その上で会場に向けて、「具体的な問題が定かではない場合には、とにかく人と話し続けなきゃいけない。それにはちょっとエネルギーが要るが、自分のためにも周りの人のためにも、色々な人との対話を通じて考えていってほしい」と激励し、講演を締めくくった。