テスト効率化を目指したプロダクトへの挑戦
川口氏は、共同代表を務めるLaunchable, Inc(以下、Launchable)でQA(品質保証)に関わるAIサービスを提供している。テストプロセスの最適化に焦点を当てたLaunchableのプロダクトは高く評価されているが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったと川口氏は語る。
「まずはQAにフォーカスしたSaaSを作ることに決め、さまざまなテストの中から実行すべきものを自動選定することで、無駄なテストの実行コストを減らすというプロダクトを作った。創業者が営業したところ、一定の顧客に売れるところまでは辿り着いた」(川口氏)
こうしてひとまず小規模なマネタイズには成功したが、問題は次の一手だった。より多くの顧客にリーチするため「“客寄せパンダ”的な無料商品を作ろう」と考えた川口氏は、テストの実行結果をSlackで通知するという気軽なサービスを提供し始める。
ところがこれは「まったく誰にも刺さらなかった」。川口氏は当時を振り返り、「マーケティング担当がいろいろと工夫してサインアップフォームまで連れてきても、誰もツールをインストールしてくれなかった」と話す。
なぜ多くの人が途中で去ってしまうのか。社内で話し合いを重ねるも、理由は今ひとつ分からない。このままでは埒が明かないと感じたメンバー達が辿り着いた結論は、「もうインタビューするしかない」だった。
では、インタビュー対象者をどう見つけるか。これもまた悩ましいポイントだったが、同僚の「Amazonギフトカードでも配っちゃえば?」という気軽な提案を受けて「ダメもとで」募集をかけたところ、想像以上の応募があった。
とはいえ、初めからうまくいったわけではない。1人目の応募者はナイジェリアのラゴスに住むフリーランスのデベロッパーだったといい、「インターネットカフェで仕事をしているそうで、『夜には電気がなくなるから、それまでに帰らなきゃいけない。1時間で終わらせてくれ』と言われた。話は非常に面白かったものの、ギフトカード目当てで応募したことは明らかで、あまり役には立たなかった」と川口氏は笑う。
一方で、想像以上に有益なインサイトをもたらしてくれた対象者もいた。
「ネパールの日本向けSIerでCTOを務めていた人は、日本向けに開発を請け負っている経験から、QAに関する色々な話をしてくれた。我々は当初、『テスト結果を通知するサービスが誰にも刺さらなかったのはなぜか』を知りたいと考えていたが、実際のインタビューはその枠をはるかに超え、QAという分野自体への解像度を高めてくれた」(川口氏)
こうした意外な出会いを通じて川口氏は、そもそもの背景理解、問題提起が不充分であったことを自覚したという。このように客観視できたのは「広く網をかけたことにより、予想外の経験ができたため」であるとし、「ギフトカードを配るという“安易”な作戦が、意外にも功を奏した」と振り返った。