はじめに
今日私たちが利用する計算機は、特定の範囲の整数(32ビットあるいは64ビット整数など)は簡単かつ高速に計算できるようになっています。しかしながら、その範囲に収まらない整数を扱いたいこともあります。そういう場合には、多倍長整数という仕組みを利用するのが一般的です。
本稿では、Fibonacci数の計算を例にして、PHPで多倍長整数を扱う方法を紹介し、そのパフォーマンスを調べます。Fibonacci数や多倍長整数には興味のない方も、パフォーマンスの調べ方(ベンチマークや統計処理方法)は、きっと参考になるでしょう。
必要な環境
XAMPP for Windows 1.6.4に含まれるPHP 5.2.4で動作を確認しました。利用したPearのパッケージは次のとおりです。
- Benchmark 1.2.6
- Math_Fibonacci 0.8
- Math_Histogram 0.9.0 beta
- Math_Integer 0.8
- Math_Stats 0.8.5
準備
Math_HistogramだけはXAMPPに含まれていなかったため、コマンドプロンプトで次のようにインストールしました([コマンドの実行前に、c:\xampp\php\pear.iniの「"\xampp」を「"C:\xampp」に修正)。β版なので-f
を付けてインストールしました。
c: cd \xampp\php pear install -f Math_Histogram
本稿では、コマンドプロンプト(あるいはシェル)上でPHPのプログラムを実行します。PHPのための設定ファイルがいつもと違う場合があるので注意してください(筆者の環境では、Webサーバのためのphp.iniは「C:\xampp\apache\bin\php.ini」ですが、コマンドプロンプトのためのphp.iniは「C:\xampp\php\php.ini」です)。
Fibonacci数(Math_Fibonacci)
「f(0)=0, f(1)=1, f(n+2)=f(n+1)+f(n)(nは0以上の整数)」で定義されるような数をFibonacci数と言います(本稿では「f」はFibonacci数のこととします)。初めの数個を列挙すると、「0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34...」のようになります(連続する2つの数の和が、次の数になっています)。
Fibonacci数には、「連続する2つの数の比が黄金比に近づく」というような興味深い性質(文献[1]を参照)の他に、探索アルゴリズムなどにおいて実用上の価値もあることが知られています(文献[2]を参照)。
少し計算してみると分かりますが、Fibonacci数はとても速く増大します。そのため、nを少し大きくすると、f(n)は簡単に32ビット整数や64ビット整数の範囲を出てしまいます。そのようなf(n)を計算するためには、一般に多倍長整数と呼ばれるものを利用しなければなりません。
多倍長整数は多くのプログラミング言語でサポートされています。PHPでも、Math_Integerというパッケージを利用することで、簡単に多倍長整数を扱うことができます。Math_Integerを利用するパッケージの一つにMath_Fibonacciがあり、これを利用することで、大きなFibonacci数を簡単に計算することができます。
Math_Fibonacci
クラスのterm
メソッドでFibonacci数を計算します。
<?php include_once 'Math/Fibonacci.php'; $result=Math_Fibonacci::term(10); print "f(10) = {$result->toString()}\n";//f(10) = 55 ?>
Math_Fibonacci
クラスには、ここで利用したterm
の他に、次のようなメソッドが用意されています。リファレンスマニュアルを参照してください。
メソッド | 処理 |
closestTo | 引数に最も近いFibonacci数を求める |
decompose | 引数をFibonacci数の和で表す |
getIndexOf | f(n)からnを求める |
isFibonacci | 引数がFibanacci数かどうかを調べる |
series | 指定した範囲のFibonacci数を計算する |