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プログラマーが小説を書くとは

プログラミングの経験を活かして異業種に挑む方法

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再現性

 プログラムでは、アプリケーションの「実行の再現性」を重視します。アプリケーションを実行するたびに、違う結果が得られると困るからです。

 また、開発においても、似たような業務を以前と同じように実現できる「仕事の再現性」が求められます。

 私は小説を仕事として書きたいと思いました。その際大切なのは、再現性を持って最低限のクオリティを維持できることです。そのためには、作業工程の定型化と、その改良が、小説執筆手順に組み込まれている必要があります。

 そうした再現性の観点で、以下のような点を気をつけて小説を執筆していました。私は小説を、工学的なアプローチで書けないかと思い、作業工程の改善を続けました。

企画書と設計書の作成

 小説は、毎回「企画書」と「設計書」を書いてから執筆します。

 ハリウッドでは、脚本の書き方や、リライティングのメソッドがあります。初期の頃は、そうした手法を研究して実践し、徐々に小説向けの、独自メソッドの確立を試みました。

 こうした企画書や設計書は、「書きにくかった点」「有効でなかった点」を検証して、一作ごとにテンプレートのアップデートを続けています。このアップデートは、まだ続いています。

執筆時のルールの作成

 文章表現について、執筆時のルールを定め、毎回改良しながら書いています。

 また、誤字脱字の確認や語句の使い方など、機械的にチェックできる内容については、市販のツールを利用したり、自前で自動確認ツールを開発したりして対応しています。このルールも、一作ごとに改訂を続けています。

計測と可視化

 改善のために必要なのは、計測と可視化です。執筆速度と推敲時間の計測と可視化を行っています。

 作業としては、数KB書くごとに、連番ファイルを作っていきます。また推敲時も、1時間ぐらい作業するごとに、連番ファイルを作っていきます。

 そうすることで、1日あたりどれぐらいの執筆量なのか、どこで手間取っているのかなどを、数字で確認することができます。こうした情報は、表計算ソフトで管理します。

 こうして得た計測データを、以前の執筆と比較することで、どの作業時間を減らせたのか、どの作業工程がボトルネックなのかが分かります。そして、非効率な部分や苦手な部分を重点的に検証して、作業方法や手順を見直します。

PDCAサイクル

 PDCAサイクルは、事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つです。PDCAの文字はそれぞれ、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)に対応しています。

 小説の執筆と新人賞への投稿でも、このPDCAサイクルを意識しました。小説の執筆では、それぞれの段階は、以下に対応します。

  • Plan(計画)= 企画書と設計書の作成
  • Do(実行)= 執筆と新人賞への投稿
  • Check(評価)= 選考の結果
  • Act(改善)= 結果を見ての課題点の洗い出し

 この中で、一番大変だったのは、Check(評価)とAct(改善)です。通常、新人賞は「何次予選まで通ったか」「最終候補に残ったか」ぐらいしかレスポンスデータがありません。新人賞によっては、最終候補に残ると、選考委員の選評が出たり、編集部から評価を聞かされることがありますが、基本的には「どこまで通過できたか」のデータしか得られません。

 そのため、このレスポンスを最大限活用するために、Plan(計画)段階で「今回の実験的な試み」を必ず入れるようにしました。「こうした書き方はありなのか」「こうしたお話はありなのか」といった実験を入れるようにしたわけです。

 その代わりに、演出や文章については再現性を重視して、前回よりもクオリティを上げるようにしました。そうすることで、どこまで予選を突破したかで、実験の答え合わせをしていきました。こうして、徐々に小説の精度を上げていったわけです。

 このやり方で、予選突破率が大幅に上昇したのは8年目ぐらいでした。最終候補自体は3年目に到達していましたが、そこから最低ラインを上げていくのに5年かかりました。

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デバッグ作業

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この記事の著者

柳井 政和(ヤナイ マサカズ)

クロノス・クラウン合同会社 代表社員http://crocro.com/オンラインソフトを多数公開。プログラムを書いたり、ゲームを作ったり、記事を執筆したり、マンガを描いたり、小説を書いたりしています。「めもりーくりーなー」でオンラインソフト大賞に入賞。最近は、小説家デビューして小説も書いています(『裏切りのプログラム』他)。面白いことなら何でもOKのさすらいの企画屋です。 

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/9611 2016/09/02 14:00

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