好きを突き詰めたことで円周率計算の世界記録を更新
職場は度々変わったが、並行して続けてきたこととして、岩尾氏は「社外でのコミュニティ活動」を挙げる。その結果、広い視野や社外の技術が身に付き、さまざまな人とのつながりができ、さらに転職のきっかけとなった。実際、過去の転職はすべて社員の紹介によるもので、たとえばRubyのコミュニティで活動したことがきっかけでWeb開発へ、Linuxに興味を持って本を書いたことがきっかけでOS業界へ、そして大学の研究室の後輩に紹介されてGoogleとの縁ができた。さらに広告からクラウドの部署に異動ができたのも、コミュニティ活動で評価されたことが大きかった。
岩尾氏は、「カンファレンスに登壇したり、コミケで技術書籍を自費出版したり、クラウドをユーザーとして実際に使った経験やRails Girlsでコーチをしたこともあった。実際に過去の登壇動画をマネージャーに共有してもらったため、プレゼン面接が不要になったこともある。コミュニティ活動は楽しみのために行なっていたが、キャリアの上でも役に立った」と振り返った。
そしてもう1つ、コミュニティ活動に加えて、「好きでやっていたこと」が仕事に役に立ったこととして「円周率の計算」をあげた。Cloud DevRelではクラウドを使った技術でも開発が業務の一つになっており、たまたまチームで円周率の企画を考えていた時に、世界記録更新の計算を提案したところ採用。2019年には270TBのストレージを使って31.4兆桁、2022年には600TBを使って100兆桁の計算を発表し、世界記録を塗り替えた。
「たまたま環境が整って、世界記録を実現でき、テレビや海外メディアでも取り上げられた際には広報やマーケティングも協力してくれた。自分の興味と業務が一致して、大きな成果を出すことができた」と岩尾氏は評し、「一分野で突出していなくても、好きなことと業務の合わせ技がハマることもある。Linuxのネットワークや知識・経験があり、説明書を読むのが好き、ググるのが得意、さらに円周率の世界記録という概念も知っていて、偶然タイミングと運が重なっただけ。どこで何が役に立つかわからない」と語った。
そしてもう1つ、日本からシアトルに引っ越したのもこの時期だという。ずっと海外で働いてみたいと考えており、上司に相談したところ難なく了解が得られた。職を失えば日本に戻らなければならない”アジア系外国人労働者”という立場で仕事の見方が変わったり、母国語以外で工夫して仕事をしなければならなかったり、不便もあったが、「海外で働いている=箔がつく」という意味でよかったという。そして、同性婚が認められていることもプライベートでは大きなプラスになった。