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Developers Summit 2024 Summer レポート

技術力だけでは乗り越えられないビジネスの壁を乗り越える!推し技術を組織に根付かせる「戦略的エンジニアリング」

【23-A-7】エンジニアのための処世術 ~ 推しの技術を採用させるメソッド

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技術の導入を成功させる4つのコミュニケーション術

 技術の提案が上位層の興味を引いたとしても、その先には次の難関が待っていると菅原氏は指摘する。それが、「変化への抵抗」だ。

 組織が大きくなればなるほど、新しい技術の導入や既存のやり方の変革に対して、慎重になる傾向が強まる。特に歴史あるプロジェクトでは、この傾向が顕著だ。新しい技術を見つけ、「これを使いたい!」と意気込むエンジニアにとって、これが大きな壁となる。

 その理由について菅原氏は「人は変化を嫌う生き物である」とし、「5匹のサルの実験」という思考実験を例に挙げた。これは実際の実験ではなく、変化への抵抗を示すための寓話的なものだ。その内容は次の通りだ。

 あるサルの群れで、1匹がはしごに登ってバナナを取ろうとすると、残りの4匹に冷水が浴びせられる。この経験を繰り返すと、サルたちは誰かがはしごを登ろうとすると必死に止めるようになる。そして、止められたサルも「登ると何か悪いことが起こるらしい」と理解し、次第にバナナを取ろうとしなくなる。さらに、新しいサルを群れに加えても、彼はルールを知らないためバナナを取ろうとするが、他の4匹が必死に止める。こうして、新たなサルも「取ってはいけない」と認識するようになる。この入れ替えを繰り返し、最終的に元々の5匹が全て入れ替わっても、誰もバナナを取らなくなる。理由を知らないまま、ルールだけが残るのだ。

 菅原氏はこれを「謎ルール」と呼び、組織やプロジェクトでも同様の現象が起こりがちだと指摘する。時間とともに理由が忘れ去られたルールが人々を縛り、新たな一歩を踏み出すことを阻んでしまうのだ。「特に大きな組織やプロジェクトほど、この謎ルールが存在し、新しい技術導入の障壁となっている。新しいことを進めるためには、まずこの謎ルールを打破する必要がある」と菅原氏は強調した。

組織には意外と「謎ルール」が残っている
組織には意外と「謎ルール」が残っている

 この謎ルールに立ち向かい、新しい技術を導入するためのカギは、「想いを言葉にして伝える」、つまりコミュニケーションの力だと菅原氏は語る。チームワークを高め、組織の中で信頼を築くことで、障壁を乗り越える力を育むのだ。

 「まず重要なのは、キーマンの心をつかむことだ。発言力のあるキーマン、プロジェクトの有識者、組織で信頼されている人々は、新技術の導入においてカギを握る存在だ。技術者にとっては時に『政治的』と感じられるかもしれないが、彼らを味方につけることが成功への道を切り開く」と菅原氏は述べる。彼自身も、このアプローチをキャリアの中で繰り返し実践してきたという。

 エンジニアは技術に夢中になるあまり、視野が狭くなり、周囲の状況が見えなくなることがある。菅原氏も、かつてそうした状況に陥り、周囲から孤立してしまった経験がある。しかし、「推しの技術を採用してもらうためには、コミュニケーションを通じて周囲を巻き込み、キーマンを味方につけることが不可欠だ」と結論付ける。

 新しい技術の導入を成功させるためには、単なる熱意だけでなく、周囲とのコミュニケーションが欠かせない。菅原氏は、このために必要な4つのポイントを挙げた。

  1. 殻を破り、積極的にコミュニケーションを取る

    技術者は新しい技術にのめり込むあまり、自分の世界に閉じこもりがちだ。しかし、その状態が続くと、周囲から「殻に閉じこもっている変わり者」と見られてしまうことがある。菅原氏自身もそうだったと振り返り、積極的なコミュニケーションの重要性を説く。

  2. 「良いものだから、わかる人にはわかる」という姿勢を捨てる

    日本の職人気質でよく見られる考え方だが、明確に価値を伝えなければ、未来永劫理解は得られない。技術が本当に優れているのであれば、その価値をしっかりと言葉で伝えることが重要だ。

  3. 説明時に専門用語を使わない

    「できるだけ小学生でも理解できるレベルで説明するべきだ」と菅原氏は解説する。専門用語を使わずに説明できるのは、技術の本質を理解している証拠でもある。逆に、専門用語を多用する人ほど、技術を深く理解していないケースが多い。だからこそ、専門用語に頼らずに伝える努力が必要だ。

    同時に、菅原氏は「わからない人を決して見下さないこと」も重要だと指摘する。技術に自信があるエンジニアほど、無意識のうちに相手を見下すような口調になりがちだ。菅原氏自身も若い頃にその失敗を犯し、後悔した経験があると振り返る。技術の価値を伝えるためには、相手を尊重し、丁寧なコミュニケーションを心がけることが不可欠なのだ。

  4. キーマンと積極的にコミュニケーションを取る

    これは「ごますり」をしろという意味ではなく、キーマンと信頼関係を築くことの重要性を説いている。キーマンと呼ばれる人たちは技術好きであることが多いため、技術トピックを切り口に、懐に飛び込むと良いという。菅原氏も、まず技術の話題からキーマンに近づき、信頼を築いてきた。技術を媒介にコミュニケーションを深め、情報を引き出すことで周囲を巻き込み、プロジェクトを動かすことができる。

 菅原氏が挙げた4つのポイントは、エンジニアが技術を組織に根付かせるための重要な指針となるだろう。

菅原氏の提唱する「コミュニケーション四か条」
菅原氏の提唱する「コミュニケーション四か条」

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技術導入を成功させるための定量的アプローチ

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この記事の著者

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

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水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

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