目標を達成できなかった時に、モチベーションを維持するには?
良い目標を設定しても、達成への道のりは山あり谷ありだ。不確実性が高い五里霧中の状況でどう行動するかについて、小田中氏は「1週間~1か月単位でのスプリントゴールを用意する」アジャイルアプローチの実践を勧めた。具体的には、ゴールまでの期間で生み出す価値や検証したい仮説を明確にしたうえで、実際に行動して得られた成果から学びを得るというプロセスを通じて、継続的に改善を図っていくのがおすすめだという。
アジャイルなアプローチは、OKRとの親和性も高い。まずは定量的に示されているKRから作るべきものを作り、生み出されたものが再びKRに作用する循環を作れれば、的確な価値を創出できる可能性が高まるからだ。
そんなアジャイルチームが機能するためには、目標達成への高いモチベーション、そして成長を信じる柔軟な思考から成る「マインド」と、開発力とマネジメント力から成る「スキル」が不可欠だと小田中氏は語る。
とりわけマインドに問題が生じやすいのは、高い目標を達成できなかったタイミングだ。小田中氏は「施策が失敗した瞬間、モチベーションが落ちることはよくある」としつつ、失敗を学びの機会と捉え、成長の可能性を信じる心がモチベーション維持に繋がると説いた。
さらに小田中氏はこうした健全なマインドの醸成について、マネジメントの後押しが重要だとも強調する。具体的には、課題に直面するエンジニアとの1on1やワークショップの実践を挙げ、課題感に寄り添ったりリフレーミングを行ったりすることが重要だという。
鍵を握るのが、物事の捉え方をポジティブに変換する「リフレーミング」だ。たとえばコードレビューを苦手とするエンジニアに対しては、レビューを「より良いコードに改善するための貴重なフィードバックを得られる機会」だと捉え直すことで前向きなマインドを醸成できる。
相手の気持ちに寄り添いながらリフレーミングを行うことで、前向きな気持ちを養っていき、メンバーが自らの成長可能性を信じて努力する環境を作っていくのだ。こうしてチーム全体が成長し開発力が上がれば、「やればできる」というマインドがさらに強化される好循環が生まれる。
チームへのアプローチについては、「たとえ結果が思わしくなくても、最善を尽くした姿勢そのものにエールを送る場を定期的に設けることが有効」と、メンバーの行動や成果をチーム内で共有する「Winセッション」の実施を推奨した。
セッションを行う際には直近の状況を踏まえつつ、「この状態が来週以降も変わらなかったらどうなるか」という視点で考える。具体的な振り返り手法として、小田中氏はプラス要因・顕在化している課題・潜在的なリスクの3点について話し合う「熱気球」、参加者がそれぞれ話したいテーマを提案し、その中から全員で1つのテーマを選んで深く掘り下げていく「リーンコーヒー」の2手法を挙げている。
またチーム単位での開発力向上については、「お互いの強みを活かしたチームワークの発揮」と「メンバー個人個人のスキルアップ」に集約されるという。
前者は、各メンバーの意欲や得意・不得意にあわせてタスクを移管することで、チーム全体の満足度が上がるという考えだ。小田中氏は「背中を預け合う関係ができていくと、いいチームワークを発揮しやすくなる」と述べた。
後者は、ラーニングセッションや外部セミナーなど、学ぶ機会を担保することで開発力を高めるというものだ。必要に応じて行うモブプロや輪読会などの取り組みがこれに該当するが、小田中氏のチームでも、医療ドメインに詳しくなるために厚労省の医療情報ガイドラインの輪読会を毎週行い、体系的な知識を習得していると紹介した。