NVDA Workshop in Japan
(著者: 西本/NVDA日本語チーム 代表)
スクリーンリーダーNVDAの紹介
NonVisual Desktop Access(NVDA)は視覚に障害のある人がコンピューターを使うための支援技術の一つで、スクリーンリーダーと呼ばれているソフトウェアです。名前が示すように、画面に表示される情報を合成音声で読み上げることが基本機能です。NVDAはPythonとC++で実装されたオープンソースソフトウェアで、Windowsに対応しています。ライセンスはGPL v2です。
NVDAの主要な開発者は、視覚障害の当事者でもあるオーストラリア在住のMichael CurranさんとJames Tehさんです。オープンソース開発を支援するサイトであるsourceforge.netはProject of the Month, March 2011としてNVDAを取り上げました。一般に、スクリーンリーダーは高価なソフトウェアですが、LinuxデスクトップではGNOME Orcaというオープンソースのスクリーンリーダーが実現されています。NVDAの開発者は「世界中の視覚障害を持つ人が、晴眼者と同じコストでコンピューターを利用できるようにしたい。政府や福祉団体に要求をするだけでなく、開発者の立場だからできることもある」と考えて、オープンソースのWindows対応スクリーンリーダーの開発を始めました。そこで選ばれた開発言語がPythonでした。
NVDAの最初のリリースは2006年でした。以来、アクセシビリティに積極的な企業や団体の支援を受けて、NVDAは高価な商用のスクリーンリーダーに匹敵するソフトウェアに成長しました。2012年5月の調査ではNVDAをよく使っていると回答したユーザーが43%にのぼっています。NVDAの国際化は翻訳ボランティアが行っており、現在は約40の言語に対応しています。
ユーザーの立場から見たNVDAの魅力の一つは「コミュニティのスピード」です。 NVDAは1年に3回バージョンアップし、WAI-ARIAやPDF/UAなどのアクセシビリティ標準規格に対応しています。Windows 8やタブレット操作への対応も進んでいます。この開発体制を維持するために、非営利組織NV Accessは、企業や公的機関に資金援助を求めるだけでなく、ユーザーにも寄付の呼びかけを行っています。
日本ではNVDA日本語チームが、日本語の音声合成やかな漢字変換の読み上げ機能を追加した派生版(nvdajp)をリリースしています。点字ディスプレイとよばれる装置に日本語の点字を出力する作業にも取り組んでいます。
日本では、視覚障害を持つ人は、自治体の補助などを利用して商用のスクリーンリーダを購入することが多く、オープンソースのスクリーンリーダーへの関心は高くありません。しかし、海外でシェアを高めつつあるオープンソースのスクリーンリーダーが、日本で広く使われる状態になることは、スクリーンリーダーに配慮したWebサイトやアプリケーションを開発する日本の開発者にとっても、意味のあることです。
NVDA Workshop in Japan発表の概要
今回NVDA Workshop in Japanでは、オーストラリアからNVDAの主要な開発者Michael Curranさんをお招きします。スクリーンリーダーを使って、スクリーンリーダーを開発するという活動に、なぜPython言語が選ばれたのか、興味深くありませんか?
さらに、台湾からTaiwan Digital Talking Books AssociationのJerry WangさんとAaron Wuさんをお招きして、中国語を含む東アジア言語への対応についてお話を伺います。2012年5月からNVDAの中国語対応を強化する開発を行ってきました。
NVDA日本語チームからは西本が、NVDA日本語版の開発についてご報告します。そして最後に、多言語対応のアクセシビリティ技術を、世界でどのように育てていけばよいのか、皆様と一緒に考えるために、電子書籍フォーマットEPUB3のアクセシビリティ機能でもあるDAISYの開発を指導された河村 宏さんに「グローバルなオープンスタンダード技術によるインクルーシブな社会発展」と題して講演していただきます。
東アジア言語圏のテキスト処理に関する情報はあまり英語で公開されていません。CJKV Information Processing, 2nd Edition(By Ken Lunde)のような書籍はありますが、音声合成、点字、スクリーンリーダーなど、アクセシビリティに関わる技術者の国際的な交流は、日本が世界に取り残されないために必要です。アクセシビリティに関する東アジア言語圏の技術情報は、Windows以外のOSやデバイスとも無関係ではありません。ぜひNVDAの併催イベントに足をお運びください。
最後に
今回もってPyCon JP 2012開催前レポートは終了となります。参加したいセッション・イベントなど見つかりましたでしょうか。
今週末、9月15日からいよいよPyCon JP 2012がはじまります。
チケットはおかげさまで完売いたしました。なお、PyCon JP 一日目の夜に行われる PyCon JP Partyのチケットはまだ余裕がありますので、お誘い合わせの上ぜひご参加ください。日本のみならず世界中から集まったPythonistaとの交流を楽しんでください。
PyCon JP 2012運営チーム一同、皆様のご来場をお待ちしております。