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【夏サミ2016】セッションレポート

社会的な問題に「パッチを当てる」ハッカーになるためには?――リンダ・リウカスさんと及川卓也さんが考えること【夏サミ2016レポート】


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ハッカーとして意識した瞬間とは?

翔泳社 岩切晃子

岩切 それでは、お二人にいろいろと質問していきたいと思います。まず、誰もがハッカーと認めるお二人が、社会をハックしている実感を持ったのは、いつ何をした時なのでしょうか。

及川 ソーシャルハッキングを意識し始めたのは、やはりHack For Japanでボランティアをはじめた時ですね。自分で作ったものもいろいろあるのですが、それ以上に情熱を持って人の心に入り込み、他の人をアジテートして活動がアクティブになった時の感動の方が大きかったですね。

リンダ 私自身については覚えていませんが、ある女の子がハッカーとして目覚めた瞬間は目の当たりにしました。オンオフのボタンを貼るとコンピュータになるという、あるワークショップを行ったんです。まだ親世代はIoTなんてほとんど聞いたことがない頃なのに、子どもたちは、歯ブラシやテディベアをコンピュータにするんですよね。その中で1人の女の子が自転車のライトにシールを貼って、自転車旅行をしている時には、テントに映し出すプロジェクターにもなるのだという発見を教えてくれたんです。

 彼女は次の3つの大切なことを教えてくれました。まず、世の中には問題がいっぱいあるということ。そしてテクノロジーは素晴らしく、スケールする可能性を秘めていること。そして、その変化の一部を担うことができるということ。彼女はいわゆるITのハードウェアハッカーになるわけではないでしょう。でも、工夫次第で解決できると気づいた時点でハッカーとして開花したといえるのではないでしょうか。

挑戦し、諦めずにやり遂げられるのはなぜ?

岩切 それでは2つ目の質問。お二人ともとても明るくポジティブで、ハードな時も笑顔でいらっしゃる。時にハックすべき問題に困難がつきもので、かなりのタフさが求められるかと思います。でも、そんな時でも「まずはやってみよう」という精神を持つことができるのはなぜでしょうか。また、取り組み始めてからも諦めずにやり続けることができるのはどうしてなのでしょうか。その明るさの秘密を教えてください。

及川 ハードな時にこそ前に進もうという人は、ハッカーに多いですね。私の先輩にも、客先で無理難題を吹っかけられるとワクワクして「今日は徹夜だな」と笑顔でいう人がいましたが(笑)。自分の力で相手の問題を解決できるという確信。それがあるから、やはり課題解決が喜びになっているのでしょう。

リンダ 私の場合、モチベーションを保つコツは「他人と比べない」ことですね。たとえば、自分の1年前と進歩を比べることはするけれど、Ruby開発者のまつもとゆきひろさんとは比較しません。

社会をハックするにはスキルが必要?

岩切 前述のエリック・レイモンド氏がハッカーの要件として、「プログラミングを身につけていること」「オープンソースUNIXの使い方と動かし方を覚えること」「WWWの使い方を学び HTML を書くこと」「まともに英語ができないならば身につけること」の4つをあげています。それについて、どう思われますか。また、他にどんなスキルが必要でしょうか。

及川 いくつかはプログラマ以外にも適用するように思いますね。まず1つ目の「プログラミングを身につけていること」については、決してコードの書き方を知っていることではないと思うんです。大事なのはプログラミングを教えるのではなく、プログラミング的思考法を教える、ロジカルな考え方を教えるということでしょう。

 ソーシャルハッキングは、いわゆる問題のあるところ=「パッチを当てるところ」を探してパッチを当てることです。バグだとすれば、デバッガーの使い方を知り、問題点を明確化する。もしあったらどう直すか。何もないところで考えるならデザインパターンを作ってアルゴリズムを見出すなど、ロジカルな作業が必要です。

 というと難しく聞こえますが、いつも普通に私たちがやっていることなんです。たとえば何種類もの料理を作る時なんかは、頭の中でそうした作業をやっているはずなんですよね。人間には論理的な思考があり、それを使って最適化していることはたくさんあります。それを高めたり、手段として使ってみたりすることが大切なのではないかと思います。

リンダ T型人間という、広く浅い知識と1つのことに深い知識を持っている人がいますね。私はまさにそれがハッカーに求められるスキルの形だと思います。ついつい、ハッカーは「深いコンピュータ知識を持っている」と思いがち。しかし、未来にはエネルギー、教育、健康などのたくさんの問題があり、それを熟知した上でコンピュータがどう解決するか広く浅く知識を持っている方が望ましいと思います。

 一方、「自分はできないだろう」症候群というのがあります。プログラマは勉強することが多く、何かを勉強すればするほど、もっと勉強したいという気持ちになるでしょう。どんなに勉強しても尽きることはありません。でも、絵を勉強して熟知してから作品に取りかかる人はいませんよね。ハッカーも同じです。なにか解決するための施策に取り組みながら勉強する、それが大事だと思います。

技術的にイケテない組織や上司などと付き合うには?

岩切 革新的な技術や取り組みに理解がない組織や上司は、ハッカーにとって大変なストレスになると思います。しかし、そこをクリアしなければならないとしたら、どのように対応されますか。

リンダ 私の場合、自分が自分の上司です。なので、逆に自分の上司であることに困難を覚えることはよくありますが(笑)。たとえば、問題に対して新しいプログラミングを勉強しなければならないのに他のことにかまけていたり。なので、プログラマはナマケモノなんだと考えるようにしています(笑)。

及川 私もそういう会社や上司のもとで仕事をしたことがないので、なんとも。いっそ辞めちゃえばいいんじゃないですか(笑)。ムダなことに労力を費やすのはもったいないですからね。

 ただコミュニケーションに問題がある場合、ハッキングはもはや1人でやる仕事ではないし、難渋した経験は後にいろんな場で生きてくると思います。なので、自分が成長できるいい機会とポジティブに捉えて取り組むのもアリだと思います。

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政治的な活動にハッカーとして関わるべき?

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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